「赤い蝋燭と人魚」は、静かな海辺の町を舞台に、人魚が人間に託したひとりの赤ん坊の運命と人間の欲望の末を描いた、小川未明の名作童話。
その物語を、酒井駒子さんが繊細な筆致であらためて息づかせたのが本作です。

『赤い蝋燭と人魚』小川未明作、酒井駒子絵、偕成社、2002 amazon
ある人魚が、その幸せを願い、娘を人間へと託しました。
美しく純粋に成長した少女は、自分を引き取ってくれたお爺さんの蝋燭づくりを手伝い、絵を描くようになります。
その蝋燭は、不思議な力と美しさを放ち、やがて町に繁栄をもたらします。
お爺さんとお婆さんは、最初こそ少女を慈しみ育てますが、そのうちに、少女の献身にあぐらをかくようになりました。
さらには、少女の身を、怪しげな香具師に売ってしまいます。
少女によって美しい絵の施された蝋燭は、その灯火で町を豊かに照らしました。けれど同時に、人間たちの欲望を映し出す存在にもなっていくのです。
普遍性のある名作童話と、絵本ならではの情感豊かな世界が調和したこの絵本『赤い蝋燭と人魚』。
売られる直前まで蝋燭に絵を描く少女の後ろ姿、そして人間に娘である少女が傷つけられたことを悟ったときの、表情の見えない人魚の口元など、酒井駒子さんの絵は、悲しさと残酷さをしっかりと切り取っています。
ページをめくるたび、蝋燭の赤い光と深く静かな海の暗さの対比が、読む人の心に長く残る余情を生み出します。
読み継がれてきた物語の魅力を、酒井駒子さんの光と影を描きだす美しい絵で、再発見できる作品です。
にこっとポイント
- 長く読み継がれている、小川未明の童話を絵本にしたものです。美しく詩的な文体と、酒井駒子が描く光と影の対比が魅力です。
- 人間の欲望が招く結果の物悲しさに思いを馳せつつ、しっとりと物語に浸り、ページをめくるたび余韻を味わえる一冊です。
(にこっと絵本 Haru)









