PICK UP! ハロウィンに読みたい絵本

昔話の「桃太郎」と聞けば、正義の味方が鬼を退治する、そんな痛快な物語を思い浮かべる人が多いでしょう。

けれど、芥川龍之介の手にかかると、その輪郭が少しずつ崩れていきます。

桃太郎

『芥川龍之介の桃太郎』芥川龍之介作、寺門孝之絵、河出書房新社、2024 amazon

物語は、見慣れた展開の裏側にある問いをそっと浮かび上がらせます。

桃から生れた桃太郎は鬼が島の征伐を思い立った。思い立った訣はなぜかというと、彼はお爺さんやお婆さんのように、山だの川だの畑だのへ仕事に出るのがいやだったせいである。

桃太郎の行動は本当に正しいのか? その行動は、果たして誰のためだったのか?

鬼たちはなぜ退治されなければならなかったのか? 

お前たちも悪戯をすると、人間の島へやってしまうよ。

その「勇気」は、誰の目にもまっすぐなものとして映っているのだろうか? 

この絵本は、そんな根源的な問いを、静かに投げかけてきます。

そしてその問いかけに寄り添うように、画家・寺門孝之さんの絵が添えられています。

幻想的で、詩のようなうっとりとした世界に誘う絵は、鮮やかな色彩でありながら、どこか余白を感じさせ、ひとつひとつの場面に「語らない沈黙」を残しています。

桃太郎_中ページ1

鬼たちのまなざしや桃太郎の立ち姿には、善悪では割り切れない揺らぎが宿り、私たち読者の「読み」や「解釈」に、そっと力を貸してくれるのです。

芥川の淡々とした語りと、寺門さんの幻想的な絵。ふたつの表現が重なることで、この絵本は、「正義」だけでなく、物事や物語をどの角度から見るかという「視点」についてまで考える、深い読書体験へと導いてくれます。

既存のヒーロー像から視点を変えて、昔話を「考えて味わう」という、新しい読み方を体験できる絵本です。

にこっとポイント

  • 子ども向けに親しまれてきた昔話「桃太郎」が、芥川の視点で語り直されることで、「正しさ」や「ヒーロー像」への新たな問いを投げかけてきます。
  • NHK配信の「昔話法廷」もこの絵本に通ずるところがあります。違う視点から童話や昔話を考えることで、自分とは違う立場の人への認識を改める機会にも繋がりそうです。

(にこっと絵本 Haru)

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