あわただしい年度末、絵本でどこか旅をするなら…… とご紹介したくなったのが、こちら、スラブ地方の森が舞台の『はちみついろのうま』です。

『はちみついろのうま』小風さち作、オリガ・ヤクトーヴィチ絵、福音館書店、2001 amazon
結婚を約束した、髪の美しい娘と、鍛冶屋(かじや)の息子。娘は、婚約者のために、きのことキイチゴをとりに出かけたものの、魔物が潜んでいると言われている森に入ってしまいます。
そこで出会ったおにばばに髪をつかまれ、引っ張られているうちに、娘の姿は馬へと変わってしまい……。
美しい娘を捕らえるおにばば、おにばばから逃げようと知恵を絞る娘、そして馬が娘だと気づき助けようとする鍛冶屋の息子など、まるで昔話や民話のようですが、実はこちらは、「わにわに」シリーズでおなじみの小風さちさんの創作です。
ウクライナの画家であるオリガ・ヤクトーヴィチさんの「筆が産み出す美しい世界を、もっと見てみたい一心で」作られたものだそう(カバーのコメントより)。
そして、そのことば通り、この絵本の絵は、とてもとても美しいのです。
特筆すべきは、その透明感! 繊細でやわらかで、暗いものや悪いものをそのように描きながらも、全体にとても清潔感があるのです。
小さな子でも「きれいだねー」とみとれてしまうような絵なので、ぜひ、絵本を手に取っていただきたいです。
登場人物の表情、家の中に置いてあるもの一つひとつ、馬の毛並みや布の質感から、森の景色の端から端まで、きっと、ずっと見ていたくなると思います。
ウクライナは刺繍の国と言いますが、衣服やインテリアに施さている模様などの素朴な美しさも味わえます。
この飾りは何だろう、結婚したら髪はあげるんだな、など、私は、物語だけでなくウクライナの文化にもワクワクしてしまいました。
忙しいときこそ、心は広々、余白を多くとっておきたいもの。気軽な旅を、お楽しみください。
にこっとポイント
- 日本の作家・小風さんの文章に、ウクライナの画家・オリガさんが絵を描いた、まるでウクライナ民話のような物語です。
- 絵がとても美しく、お子さんから大人、高齢者まで喜ばれます。
- ウクライナを始めとするスラブ地方や伝統工芸に興味のある方へのプレゼントにもおすすめです。
(にこっと絵本 高橋真生)