会社で、別の部署に異動することになりました。転勤ではなく同じビルの別の階になるだけなので生活に影響はなく、異動先の人間関係にも仕事内容にも不満はありません。
でも、今の部署が大好きすぎて、ただたださびしくて、「ああ、嫌だなあ」とため息ばかりついてしまいます。前向きになれるような絵本はありますか?
このお便りで私が思い出したのは、あるねずみでした。
それも、ある朝、おおかみに出会って、いきなり(本当にいきなり)ぱくっと食べられてしまった、そんなねずみです。
『おおかみのおなかのなかで』マック・バーネット文、ジョン・クラッセン絵、なかがわちひろ訳、徳間書店、2018 amazon
ねずみは泣くのです。おおかみの、真っ暗なおなかの中で「おう おう おう」と。
もう おしまいだ。いっかんの おわりだ。
でも、なんとねずみは、叱られてしまいます。「しずかにしてくれよ!」― って、ええ!? 誰かいるの?
おおかみのおなかの中にいたのは、先に食べられたあひるでした。
あひるのおうちはすごいのです。テーブルクロスのかかったテーブルに、ずらりと並んだごちそう、おなべもナイフもあって、お料理だってできちゃいます。
すぐに2人は仲良くなって、「イエーイ!」。
でも今度は、おなかの中のどんちゃんさわぎのせいで気分が悪くなったおおかみが、狩人に狙われてしまいます。大事なおうちの大ピンチ、どうする、ねずみとあひる!
今いる場所の居心地がよければよいほど、新しい場所へ向かうときには、悲しいもの。大好きな人たちと離れるさびしさ、新天地への不安、場合によっては、緊張で胃がキリキリしてしまうこともあるでしょう。
不安のタネには一つひとつ対処するしかありませんが、もし何一つ不安のない、今回のようなときには、ぜひ、思いがけない出会いを楽しみにしていただきたい。
だって、今の場所がすごく好きでも、次の場所を同じくらい、もしかしたらもっと好きになるかもしれないでしょう?
ねずみとあひるの名コンビ、「とほほん ほおーん!」と切なげなおおかみに、ただただ大笑いしながら、「好き」がどんどん増えていく、そんな未来にワクワクしてほしいなと思うのです。
ご異動前後はきっとお忙しいでしょうが、たくさん笑って、元気にお過ごしくださいね。大変なときには、心のねずみとあひると一緒に、「おりゃーーっ!」と乗り切りましょう。
にこっとポイント
- 最悪の事態も最高になり得ることを、笑いとともに教えてくれる絵本です。
- シックな色合いと豊かな表情、リズムのある文章(なかがわちひろさんの名訳!)は、クセになります。ある程度絵本に慣れた5・6歳くらいから大人まで、幅広い世代におすすめ。小学生への読み聞かせにもぴったりです。
(にこっと絵本 高橋真生)