この絵本を読んだら、カタツムリを探さずにはいられなくなる……。
『こちらムシムシ新聞社 カタツムリはどこにいる?』三輪一雄作・絵、偕成社、2018 amazon
さまざまな虫が働くムシムシ新聞社に、小学生から手紙が届きました。そこには「カタツムリを飼いたいのに、見つけることができない。カタツムリはいなくなってしまったのか」という内容の質問が書かれています。
そこで、入社2年目駆け出し自然科学部記者の、テントウムシ・七星あまみちが、取材を始めました。
カタツムリの取材を通して見えてくる自然の姿
調べてみると、都会や町にカタツムリがいなくなったのは、土がなくなったためだということが分かりました。七星は、カタツムリを追って、土と樹木の多い田舎へと向かいます。
カタツムリを探していく過程で、七星はいろいろな生きものに出会います。イノシシ、カラス、ヘビ、マイマイカブリにハチ……。
それぞれカタツムリを食べたり、カタツムリのカラを家にしていたりと、カタツムリと縁の深い生きものばかり。取材を重ねる七星と一緒に、私たちも多くの生きものたちと出会い、心を動かされます。
だって、みんな「カタツムリのカラはカルシウムだし、肉はたんぱく質、バランスよく栄養がとれるってわけ」「(カタツムリのウンチは)やわらかくて、まるでベビーフード!」なんて熱く語ってくれるんですから! 笑ったり驚いたりせずにはいられません。
カタツムリを食べる生きものばかりに出会うので、「カタツムリ、大丈夫かな……」となんだか心配にもなるのですが、ようやく出会えたカタツムリはカタツムリで「わたしたちはいろんな生きものに食べられますからねぇ。それらを差しひいてもプラスになるくらい(卵を)産みます」とカラリ、あっさり。
すべての野生動物が、死ねば何かに食べられ、その命の糧になる― カタツムリ探しをすることで、食物連鎖や自然の循環といった大きな自然の姿が見えてくるのです。
手にとりやすい、あたたかみとユーモア
特に虫や自然に興味がない人も、ふと惹かれるものがあるこの絵本。それは、絵本全体に、あたたかみとユーモアが満ちているからかもしれません。
「ムシムシ新聞社」という気になるネーミング、新聞社に手紙を出した女の子の名前は「まいちゃん」という遊び心。新聞社の中などは、社員はもちろん本棚やデスクの上まで気になってしまい、目が釘付けになってしまいます。
絵も、生きものの特徴がしっかりととらえられているのに、どの個体にも表情があって、それぞれの生活(生態)を垣間見ることができます。
楽しく、柔らかく、大きな自然への入り口にそっと誘ってくれる絵本です。虫たちの小さな新聞社のドアを、ぜひ、たたいてみてください。
にこっとポイント
- カタツムリ探しの形をとりながら、自然のサイクルについて描いた絵本です。
- あたたかみとユーモアのある雰囲気で、気持ちよく生態系の不思議さを伝えてくれます。
- 表紙・裏表紙を開いた見返しには、さらなる「カタツムリのひみつ」がぎっしりと詰め込まれています。
(にこっと絵本 高橋真生)