自分で造った空色の飛行機で、誰にも邪魔されずにバードウォッチングを楽しんでいた「そらいろ男爵」。
『そらいろ男爵』ジル・ボム文、ティエリー・デデュー絵、中島さおり訳、主婦の友社、2015 amazon
けれどもある日戦争が始まり、敵をやっつけるために国中みんなで「がんばる」ことになりました。
当然、男爵も参加しなければなりません。大切な飛行機も、迷彩色に塗り直します。
そんな男爵が、見つけた砲弾の代わりになるもの。それはなんと…… 分厚い百科事典(十二巻)でした。
その「重くて、あたったら ガツーンと いたい」本で、男爵は大活躍。たった一人で、橋を一つ守りました。
それでも、戦争は続きます。
男爵は、それからも、いろいろな本を投げました。おもしろい本、不思議な冒険談に、料理の本。本を拾った敵は、みんな本に夢中!(なんと詩人も生えてきます)
そのうち男爵は、落とし方も工夫するようになります。小説の始めの半分を味方の陣地に、残り半分を敵の陣地に落とし、話をするきっかけを作ったのです。
男爵は、本を武器として、最後まで戦います。物理的に砲弾の代わりとして選ばれた本は、人を傷つけるのではなく、人の心を変えるもの、人を傷つけずに戦争を終わらせる手段となっていくのでした。
人を変え、国を変えたことばの力
そして、男爵はさらなる名案を思い付き、とうとう戦争は終わります。ことばが人を変え、人が変わったことにより、国もまた変わったのです。
戦争を始めるのは国だけれど、実際に戦うのは一人ひとりの人間ですよね。
今は敵かもしれないけれど、その人にも、本をおもしろいと思う気持ちがあり、大事な家族がいる― それぞれの人生・命の大切さを思い出させてくれる絵本だと思います。
第一次世界大戦開戦から100年目にあたる2014年にフランスで刊行され、優れた児童書に贈られる「サン=テグジュペリ賞」(絵本部門)を受賞しました。戦争がテーマではありますが、軽やかで読みやすい絵本で、アニメのようなユーモラスな絵は、なんともおしゃれです。
もうすぐやってくる4月23日は、親しい人に本を贈り合う「サン・ジョルディの日」。本を読みたくなるこの絵本『そらいろ男爵』も、プレゼントにぴったりの一冊です
にこっとポイント
- 空から本を落として戦争をやめさせた「そらいろ男爵」のお話です。
- 戦争や平和、人の気持ちについて考えたいときにおすすめです。ハッピーエンドで、絵もおしゃれでユーモアがありますから、読みやすく、幅広い世代に喜ばれます。
(にこっと絵本 高橋真生)