ペンギンのロイとシロは、いつも一緒の仲良しです。ふたりは女の子ペンギンとはあまり付き合わないし、女の子ペンギンもロイとシロとは付き合いません。

『タンタンタンゴはパパふたり』ジャスティン・リチャードソン、ピーター・パーネル作、ヘンリー・コール絵、尾辻かな子、前田和男訳、ポット出版、2008 amazon
飼育員のグラーシムさんは、頬ずりしあうふたりを見て、「この子たちは、きっと愛しあっているんだ」と気づきました。
まわりのカップルをまねて石を温めていた、ロイとシロ。その姿を見たグラーシムさんは、他のペンギンカップルが育てられなくなってしまった卵を、ふたりの巣に入れることを思いつきます。
そして、ふたりの間にタンゴが生まれたのでした。
「こうでなくちゃいけない」なんてない! 家族の形
『タンタンタンゴはパパふたり』では、オス同士のペンギンのカップルの間に、別のカップルの卵から生まれたタンゴが生まれます。
表紙に描かれた表情豊かなロイとシロ、そしてちょこんとかわいらしいタンゴという3羽は、まちがいなく愛にあふれた家族であることが伝わってきます。
この絵本が読まれるとき、「性教育になれば」「ジェンダーの多様性を知るきっかけになれば」という大人の意図が先行しがちなようですが、「こんなあたたかな出来事が、世界のどこかで起きていたんだよ」と知ることができる1冊なのです。
ペンギンたちの世界でも、男の子同士で愛しあうこともあるし、男女のカップルから生まれた卵でも本当の親に育ててもらえないことも起こりうる…… 。
私たちの中で「あたりまえ」として固まってしまっているような価値観を、この絵本はそっと崩し、いろいろな家族の在り方があると教えてくれる気がします。
『And Tango Makes Three』という原題も素敵ですね。素直に、自然に、それぞれの家族の形を受容する心を育んでくれるお話です。
にこっとポイント
- いろいろな家族の在り方がある、と教えてくれるような、心があたたかくなる絵本です。ニューヨークのセントラル・パーク動物園での実話を描いています。
- 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮文庫、2021)には、著者・ブレイディみかこさんが、イギリスの保育園で保育士としてこの絵本を読んだ話も出てきます。
(にこっと絵本 Haru)