『つきのぼうや』イブ・スパンク・オルセン作・絵、やまのうちきよこ訳、福音館書店、1975 amazon
夜空にのぼったおつきさま。あたりを明るく照らしながらふと下を見ると、池の中にもうひとりおつきさまがいるではありませんか。
おつきさまは、つきのぼうやに頼みます。「あの月を連れてきてくれないか。友だちになりたいのだ」と。
かごを下げて、元気よくかけおりていくつきのぼうや。星をけとばして、大きなわたぐもからも抜け落ちて、飛行機よりも下に下に―。
「あっ、おつきさまかな」と思うものにもいくつか出会ったけれど、違ったみたい。そして、海の底で、あるものを見つけておつきさまのところへ持ち帰るのでした。
おつきさまは、それを見て、どんな顔をしたのでしょう。大人も子どももほっとできるラストになっています。
縦長絵本で空から海へ
『つきのぼうや』では、空から海へ、下へ下へと降りていくつきのぼうやの場面の移り変わりが、効果的に描かれています。
一場面でなかなか描きにくい、下へ落下していく浮遊感や動きの経過を、35㎝×13cmという細長い絵本の形状で表現しているのです。
そのため、つきのぼうやのさまざまなものたちとの出会いは、コミカルでまるで4コママンガを見ているようでもあり、子どもたちもわかりやすく読むことができるのです。
わたしの一番の友だちは「わたし」?
おつきさまは、水の中から来た月を見て、こう言います。「なんと りっぱで うつくしい かただろう!」
でも、実はこれ、手鏡の中のおつきさま自身なのです。
わたしたちは、自分を目の前にしたときに、「友だちになりたい」「なんて素敵!」と思えるでしょうか。
うーん…… 自信がない、という人もいるかもしれませんね。
でも意外と、自分を自分と切り離して、一人の人間として改めて見つめてみると、「ここが魅力かも」なんて気づけることがあるかもしれません。そうしたら、おつきさまのように、「とてもしあわせ」な気持ちになれるのではないでしょうか。
自分が、自分の一番の友だちになれたら、自分を信じて進んでいけるはずです。
わたしにとって『つきのぼうや』は、自分を肯定する力をつけていこう、と背中を押してくれるような、ほっとする絵本です。皆さんも、ぜひ秋の夜長に楽しんでみてください。
にこっとポイント
- 空から海へとおりていく中で、つきのぼうやが出会うものたちがコミカルに描かれています。つきのぼうやと一緒に変わっていく景色を楽しめます。
- つきのぼうやが海の底で見つけたおつきさまは、「かわいらしいおつきさま」でした。あなたが出会うのは、どんなおつきさまでしょう。自分のよさを見つける機会として、ぜひ手にとってみてくださいね。
(にこっと絵本 Haru)