PICK UP! みんなでワイワイ読みたい絵本

月曜日の朝、夜明けはまだ先なのに、メアリー・スミスはもうお出かけ。寝しずまった家いえを通り越し、おもむろにポケットから何かを取り出しました。

それは、しわしわでかちかちの豆。

その豆を一粒、ゴムのチューブにこめて吹くと― カチン! パン屋の窓に命中です。

メアリー・スミス
『メアリー・スミス』アンドレア・ユーレン作、千葉茂樹訳、光村教育図書、2004 amazon

めざまし時計がまだ手に入らなかった頃、イギリスで「ノッカー・アップ」― めざまし屋と呼ばれる仕事がありました。メアリー・スミスはまさにそのノッカー・アップとして、パン屋さんを起こし、汽車の車掌さんを起こし、そして町じゅうの人々を起こしているのです。

自分の仕事に誇りを持つって素敵!

「めざまし屋」という仕事があったことを、私はこの絵本に出会ってはじめて知りました。

後書きによると、メアリー・スミスはロンドンに実在した女性だそうです。ノッカー・アップで多かったのは、長くて軽い棒で窓を叩いたり引っかいたりすることだったそうですが、メアリー・スミスは、豆をとばして窓に命中させるという、技術を必要とする方法をとっていました。熟練の腕を感じます。

メアリー・スミスは、後世に語り継がれるような、有名な偉業を成し遂げたわけではありません。でも、毎朝誰も起きていないうちから意気揚々と町を練り歩き、人々を起こしていきました。彼女の仕事のおかげで町が目覚めて動き出すのです。

焼きたてのパンをかじりながら、そして定刻通りの汽笛の音を聞きながら帰路につく彼女は、どんなにか誇らしかったことでしょう。

いろいろな国、いろいろな時代、それぞれに様々な仕事があります。今後、時代が進むにつれ、必要ではなくなる仕事、また新たに生まれる仕事もあるかもしれません。

私たちが忘れてはいけないのは、それが誰かのためになるのであれば、全てが崇高な仕事だということではないでしょうか。一人一人が町を支え、社会を支えていく― その中で、プロフェッショナルとして自分の力を発揮できる仕事に出会えたら、とても幸せだと思います。

メアリー・スミスの朗らかな仕事ぶりに、みなさんもきっと清々しい読後感を味わえるはずです。

にこっとポイント

  • 寒い朝に自分もメアリー・スミスに起こしてもらいたくなる! めざまし屋というお仕事を知ることができます。
  • 誇りをもって仕事に取り組むこと、その気持ちよさを感じさせてくれる絵本です。
  • メアリー・スミスの、娘とのお話のオチにもくすっと笑えます。


(にこっと絵本 Haru)

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