春の旅立ちにおすすめの絵本

『万里の長城』を読むと、ズシーンと重たくおなかに響きます。「圧倒」ということばがぴったりくるのは、人類の歴史が迫ってくるからなのかもしれません。

万里の長城

『万里の長城』加古里子文、加古里子・常嘉煌絵、福音館書店、2011 amazon

『万里の長城』は世界遺産でもある中国の「龍の背中」・万里の長城を描いた絵本です。なぜ作られたのか、どうやって作ったのか、またその保護・保存について、とてもよくわかります。

けれども、「長城の歴史」の絵本ではありません。長城はあくまでも起点、そこから「人類の歴史」が描かれている、万里の長城をベースとした歴史の本という趣です。

万里の長城02

中国史として楽しんだり、年表として活用したり、いろいろな読み方ができますが、「難しい」「大人でも歴史に興味がないと読めない」という感想もよく耳にします。でも、私としてはぜひ読んでいだだきたい。そこで、小学校低学年が喜んで読んだポイントをご紹介したいと思います。

なお、『万里の長城』は日中合作です。文と年表と地図などを担当しているのが、『からすのパンやさん』や「だるまちゃん」シリーズで知られる加古里子(かこさとし)さん。絵は中国の常嘉煌さんと分担しています。加古さんは工学博士であり、『地球』『宇宙』『ピラミッド』などの科学絵本も多数手がけています。

小学生が万里の長城に興味を持つ理由は?

小学生に私が時々聞かれる「万里の長城の本ある?」。

これは、小学生に大人気の「マジックツリーハウス」シリーズや、学習漫画「サバイバル」シリーズに出てきたから、興味を持ったという子たちからの質問が大多数です。

各シリーズの中で、万里の長城が出てくる本はこちらです。
・マジックツリーハウス 7巻『ポンペイ最後の日』第2話 始皇帝から禁書を救え!
『古代遺跡のサバイバル』秦の始皇帝陵編

絵本『万里の長城』を子どもが手にとったとき、大丈夫かと不安になる大人の方も少なくありません。でも、大丈夫! さらっと眺めるだけでも長城の迫力は伝わりますし、大人が難しい語句を解説しながらじっくり読めば、ちゃんと楽しめます。

小学校低学年でも『万里の長城』を楽しめる4つのポイント

1.「長城探検隊」になって、物語に入ることができるから

万里の長城の長さについては諸説ありますが、この絵本では約8000kmとされています。

絵本の冒頭で、赤道一周の5分の1もあるその長城を歩き切った人を「長城探検家」として紹介し、読者をも「長城探検隊」に誘ってくれるので、絵本の世界に入りやすいのです。「探検隊クイズ」もありますよ。

2.各時代の皇帝や思想家、科学者などが出てくるのがおもしろい

始皇帝はもちろん、各時代の皇帝や孟子、蔡倫や王充、王羲之、李白・杜甫等の歴史上の人物が数多く出てきます。孔子や『三國志』などは聞いたことがある子も多いので、興味を持って聞いてくれます。

ある小学生は、この絵本で司馬遷を知り、「偉い人と違う意見を、勇気を出して言ったのがかっこいい」「長い本を書いたのがすごい」と大絶賛。

幅広いジャンルの人物と功績が紹介されているので、読む子によって心に残るポイントが違うのもおもしろいところです。

3.歴史に名前が出てこない人は身近に感じられる

長城をつくる人もなおす人も、いつも無名の労働者たちだった

上記の点と真逆ですが、『万里の長城』には、歴史に名の残らない人も描かれます。

わが家では、息子が小学2年生のとき、絵本で紹介されている「孟姜女(もうきょうじょ)の伝説」を何度も読んでと言われました。

長城建設の労働に動員された夫が死んでしまい、嘆き悲しむ孟姜女に天が心を動かされたという話なのですが、「さみしいんだけど、なんかいい」「長城とかお墓とかって、偉い人が自分で作ったんじゃないんだよね。きっとみんな大変だったよね」と言っていました。

また、絵本の最後には、今もなお多くの労働者― 普通の働く人― によって修理され、保護されているということが書かれています。そのため、見たこともない歴史的な建造物が身近に感じられるようです。

4.年表をたどると「今」にたどりつく

小学校低学年では年表の意味を理解するのは難しいかもしれません。けれど、昔と今がつながっていることはわかります。

実は、絵本『万里の長城』は、長城のもととなる城壁の建設の話からではなく、なんと地球の誕生や生物の進化から始まります。それは、長城をよく知るためにユーラシア大陸がポイントとなるからですが、そのため、「今」が地球誕生の頃とつながっていることがわかります。

視野がぐんと広くなるだけでなく、自分のこととして考えるおもしろさがありますね。

世界最長の建造物が教えてくれること

長城は、はじめ、武力による衝突の境界として存在しました。けれど、次第に社会や文化のつなぎ役となり、「世界の宝」である世界遺産になります。これは、驚くべき変化ではないでしょうか。

あとがきには、この絵本を作るにあたっての加古さんの思いが記されています。

長城の大きさや古さをつたえるだけでなく、その背後にある中国の長い歴史とユーラシア大陸との関係がどうであったか、とくに、多民族と共存して発展するにはどうしたらよいか、世界じゅうの地域紛争の解決をしめす雄大な実例として読んでいただくことを願ってまとめました。

少しずつでもじっくりと、そして何度も読み返したい絵本です。

にこっとポイント

  • 読むときの年齢やタイミングによって、いろいろな読み方のできる絵本です。
  • 絵本の中への導き方がとてもうまく、小学生でも引き込まれます。もし読みたがったら、知らない語句をかみ砕いて話しながら、一緒に読んであげてください。
  • 加古さんの公式webサイトでは、絵本の紹介やメディア情報(こぼれ話も!)などを見ることができます。見始めると止まらないのでご注意を!

 

(にこっと絵本 高橋真生)

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