PICK UP! 海と虫の絵本

ラ・タ・タ・タム

『ラ・タ・タ・タム― ちいさな機関車のふしぎな物語―』ペーター・ニクル文、ビネッテ・シュレーダー絵、矢川澄子訳、岩波書店、1975 amazon

ある日、チッポケ・マチアスは、雪のようにまっ白で、小さくて、絵に描いたお姫さまみたいな機関車を作りました。けれど、工場長がそのちいさな機関車を取り上げてしまいます。マチアスは、空飛ぶ自転車に乗って、「もっとやさしいひとたちのいるところへいくんだ」と町を去りました。

工場長のご自慢の庭園に据えつけられたちいさな機関車は、庭をめちゃめちゃにして大暴れ。そして、逃げ出してマチアスを探す旅に出るのでした。

一つの作品として絵本をじっくりと味わってみよう

「ラタタタム、ラタタタム、ラタタタム……」なんと心地よい言葉でしょう。魔法の呪文のようにも思えますが、これは、機関車の走る音。題名にもなっているこの素敵な言葉からして、この絵本の幻想的な世界を作り出しているようです。

さらに、たっぷりと時間をかけて味わってほしいのが、絵です。絵本の1ページ1ページが、美しくて示唆に富んでいるのです。

たとえば……。

    1. 奇妙な草木が生え、古びたソフアが転がり、時計が埋まった夜道を小さな機関車が進む場面
      → ソファや時計はマチアスの部屋にあったもの? 機関車の夢をのぞいているような不思議な光景が広がっています。また、「?」の形に吐かれた煙は、小首をかしげて道に惑うように感じられて、機関車の性格や感情を表しているようです。
    2. 小さな機関車を、大きくて黒い機関車たちが追いかける場面
      → 明と暗の世界が描き分けられており、それらが象徴するもの― たとえば、仕事や忙しさに追い立てられる日々と選ぶことに自由でいられる日々、はたまた自分を縛るもの(社会のしがらみ、所属、ルール)と自分の本当にやりたいことなど― の対比がなされているのではと想像させられます。
    3. 機関車が旅を続ける画面の端々に描かれた、空飛ぶ自転車で空を行くマチアスの姿。
      → 細かいところまで注目して端から端まで眺めたくなります。

    これらは、『ラ・タ・タ・タム』の注目ポイントのごくわずか。ほかにもたくさんの見どころがある、贅沢で古きよき絵本、手にとってみませんか。

     絵本からはじまる「興味の旅」に出よう!

    実はこの絵本、ある小説に登場します。それは、こちら『夜は短し歩けよ乙女』です。

    夜は短し、歩けよ乙女

    『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦、角川書店、2006  amazon

    「黒髪の乙女」に秘かに想いを寄せる「先輩」が、彼女の姿を追い求めて京都の街を疾走するというお話です。そして、「黒髪の乙女」が小さい頃に大好きだったというのが『ラ・タ・タ・タム』なのです。

    『ラ・タ・タ・タム』を知っていてこの小説を読むと、白くて小さな機関車の、清廉でいて我が道を行くようなキャラクターが、「黒髪の乙女」に通じるようにも感じます。

    さらに、この小説は映画化もされています。ずんずんと京都の街を突きすすむ「黒髪の乙女」が機関車のように描写される場面もあり、深く演出を楽しめます。

    このように、1冊の絵本から、小説や映画へと興味はつながります。それだけでなく、絵本の作者、画家、小説の作家の他作品……と好奇心赴くままの「興味の旅」は無限に楽しめます。

    1冊の絵本から続く可能性を、「ラタタタム」と、皆さんも機関車のように走ってみてはいかがでしょうか。

    にこっとポイント

    • まるで美術館にいるように、物語とともに美しい絵から幻想的な世界観をじっくりと味わえます。
    • 表紙の、空を飛ぶ自転車の気球に注目! 本文と見比べて、家族で議論してみてもおもしろいですね。
    • 絵本、本、映画など、興味は広がっていくはずです。家で過ごすことの多い今を生かして、気持ちの赴くまま、興味の旅を楽しんでみてくださいね。
    • 絵を手がけたビネッテ・シュレーダーの『お友だちのほしかったルピナスさん』も、あわせて読みたい、素敵な絵本です。

     

    (にこっと絵本 Haru)

    おすすめの記事