ここは静かな野原。穏やかな空気に満ちています。
『なぜあらそうの?』ニコライ・ポポフ作、BL出版、2000 amazon
そこで、一匹のカエルが、平らな石の上に座っています。小さな白い花を手に、うれしそう。
そこへ、土の中から何かが出てきます。傘の先で地を穿って飛び出してきたのは、ネズミでした。
カエルはほほ笑んだままネズミと顔を合わせますが、ネズミは、突然カエルに飛びかかり、花を奪い、座っていた石を占領するのです。
すると、カエルの仲間がやってきて仕返しをし、次はネズミの仲間が…… と争いはどんどん大きくなり、とうとうカエル対ネズミの戦争にまで発展します。
透明感のある、やさしい絵のせいか、私は、この絵本を読み始めたとき、カエルとネズミは最後には仲直りするのだろうと思い込んでいました。
けれども、読み進めるうちに、それがあまりに楽観的な考えだったことに気づきます。
凄惨な争いに、どんどん荒れ果て、暗くなっていく野原。うっすらとほほ笑んでいるような― 花を眺めていたときと同じような― 表情で戦う、カエルとネズミ。
最初の野原が真っ黒な土地に変わるころには、「透明感」や「やさしさ」に、どことなく気味の悪さや狂気のようなもの感じるようになりました。
作者ニコライ・ボボフは、幼い頃、生まれ育ったロシアの町サラトフが、戦争で破壊されるところ、また戦争が終わった後の光景を見ていており、さらにトルストイやドストエフスキーなどの作品を読むことで、戦争や暴力に反対するようになったのだそうです(巻末の「作者のことば」より)。
私は子どもたちに、戦争が何の意味のないことや、人はくだらないあらそいの輪のなかにかんたんに巻きこまれてしまうことを知ってほしいと思い、この本をつくりました。
カエルとネズミが戦って、最後に残ったものは、何だったのでしょうか?
『なぜあらそうの?』は、ただ一つの文字もない、絵だけの絵本です。けれども、訴えかける力は本当に強く、恐ろしさ、不安、悲しさ、むなしさというような、ありとあらゆる負の感情を描いています。
年齢や体験に応じた例を出しながら、子どもと、争いごとや戦争について語り合うのにおすすめの絵本です。「なぜ争うのか」「なぜ止められなかったのか」「なぜ話し合えなかったのか」― 日常にもあるいさかいの「なぜ」についても、同様に考えることができるでしょう。
時節柄、お子さんによっては、強く恐怖を感じてしまうこともあるかと思いますので、まずは大人が読んでみること、一緒に読んで適切なフォローを行うようお気をつけください。
にこっとポイント
- 「人はなぜ争うのか」について、深く考えさせられる絵本です。
- 文字のない絵本で、年齢や経験に応じた読み方ができます。ただ、ハッピーエンドではありませんので、特にお子さんの場合、戦争に不安を感じているようなときには、読むことを避けたり、大人が一緒に読み適切なフォローを行ったりしてください。
- こちらの絵本は、図書館や書店の「戦争」「美術」のコーナーに置かれていることもあるようです。「絵本」以外も探してみてくださいね。
(にこっと絵本 高橋真生)