「うしとざん」……?
タイトルからして不思議ムード漂う絵本がこちら、『うしとざん』です。
『うしとざん』高畠那生作、小学館、2020 amazon
ページを開くと、まじめそうな男の人が爽やかにあいさつしてくれるのですが……。
きょうは これから うしに のぼります。
えー! 登山? 登牛……??
こちらの戸惑いなどおかまいなしに、たくさんの牛の紹介へと続きます。見開きのページにいっぱいの牛、うし、ウシ……。のぼりやすいのは、半分寝ているような牛だそうですよ。
牛を選んだら、さあ、うしとざんの始まりです。
そっと ちかづいて
つかんで ぎゅ! つかんで ぎゅ!
まえあしの みじかい けを つかんで のぼります。
こうなってくると、二の足を踏んではいられません。いっしょに「つかんで ぎゅ!」とのぼらなくてはなりませんから。
辺りを見渡せば、同じように懸命にのぼっている人も、ヘリコプターに乗ってきた人もいます。背中に着けば、なんと、自転車にも乗れるしご飯だって食べられるんですよ。
美しい色合いののどかな絵に、ていねいな文章が醸し出す「もっともらしさ」と、描かれている内容のギャップがおかしくて、私は終始ニヤニヤしながら読みました。笑い転げる人、つっこみが止まらない人もいるのではないでしょうか。
また、牛の一匹一匹やうしとざん中の他の人たちをよく見てみると、「これは……!」と思うような遊びもありますから、細かいところまでお見逃しなく。
「こういう絵本は意味がわからないから苦手」という大人の方は、決して少なくありません。でも、憤ったり不安になったりしないでくださいね。おもしろさはいろいろ。なんだか妙におもしろい、よくわからないけど笑ってしまう、そんなこともあるんです。そういうのって、理屈じゃないのかもしれません。
どうか思う存分、牛の背中でぼんやりしたり、自転車でびゅーんと走ったり、うしとざんを楽しんでください。きっと普通の登山よりも、笑い・ゆるみ・驚きの多い登山になると思います。
なぜ のぼるのかって?
そんなこと きいちゃあ いけません。
にこっとポイント
- 牛に登って下りる、うしとざんを描いたユーモラスな絵本です。ニヤニヤしたり、つっこんだりしながら自由にうしとざんのひと時を味わってください。
- 表紙を開いたところと、裏表紙を開いたところも必見です。お見事!な楽しい変化を見せてくれます。
(にこっと絵本 高橋真生)