1歳の女の子の「自分でやりたい!」にイライラしてしまうというお母さんからのご質問です。
1歳といえば、動きが活発になってきて、自分でやってみたいという気持ちも高まってくる頃ですね。触ったり、なめたり、放り投げたりと、新しいものに全身を使ってぶつかっていきます。かわいらしくて危なっかしくて、本当に目が離せなくなります。
さらに、子どもの「やりたい」と大人の「急ぎたい」がぶつかると、もう大変! 穏やかに見守ろうと自分に言い聞かせて必死で待っても、結局時間切れで手を出して大泣きされてしまう、というのは、親の「あるある」ではないでしょうか。
イライラ、ぐったり、です。ほんとうに。
さて、そんなときには『おててがでたよ』はいかがでしょうか。
『おててがでたよ』林明子さく、福音館書店、1986 amazon
むっちりほっぺの赤ちゃんが、お洋服を頭にかぶっています。そう、これから自分で着てみるつもりなんです。
お洋服をズボッとかぶると、「あれ あれ あれ」お顔もおててもあんよも、みーんな見えなくなっちゃいます。でも、大丈夫、ひとつひとつ出てくるから、見ていてくださいね。
ほら、「ばあー」とお顔が出ましたよ。「おめめも ある」「おくちも ある」「もう ひとつの おてては どこかな」…… こんなふうにお着替えは続きます。
簡単なことばしか使っていないのに、声に出してみるととても優しくて、読み方は、自然と穏やかにゆったりとなります。
赤ちゃんが着替えながら、にっこりしたり戸惑ったりするのも本当に愛らしい……と思っていたら、聞いている小さな子も絵本をと同じ顔をしていて笑ってしまう、なんてこともあるかもしれません。
自分で着替えてみたくなったり、身体のいろいろなところと出会えたり…… そんなうれしさもありますが、私が思うこの絵本のいいところは、日常の中で絵本のフレーズがふっと口をついて出てくるところ。
子どもが着替えに苦戦しているときに「ぱっ」「あんよはどこかな」「でたー」なんて言うだけで、子どもって本当に喜んでくれるんです。応援してもらうのがくすぐったくて、絵本の楽しさを共有しているのがうれしくて、それから上手に着替えられたのが誇らしくって、キャーキャー転げまわってしまう子もいるくらい。
それに、子どもだって負けてはいません。「おててに あたまに おかおに あんよ」とつぶやきながら、お母さんの全身チェックをしてくれます。その真剣さ、小さな手のあたたかさに愛おしさがこみ上げてきます。
イライラしないでいられたらいいのに、と思う気持ちは、私にも本当によく分かります。でも、きっと誰だって、そんな気持ちになってしまうことはあるでしょう。
そうしたら、『おててがでたよ』を手にとってみてください。ほっとため息が出て、身体がゆるんだら、幸せな時間を思い出していただけると思います。
ちなみに、このご質問のお母さんは、とってもおしゃれな方なのです。サッパリ、キラリとしています。女の子が、とりわけお着替えを自分でしたがるのは、ひょっとしたら、大好きなお母さんのように、自分もおしゃれをしたい気持ちがもう芽生えているのかもしれませんね。
にこっとポイント
- 子どもにとっては「着替えられた!」というお喜びが、大人にとっては赤ちゃんのかわいらしさを見つめる幸せが感じられる絵本です。
- 『おつきさまこんばんは』も含まれる「くつくつあるけ」シリーズの1冊です。0歳から喜んでくれますが、1・2歳でもいろいろな反応が見られますし、少し大きくなっても「かわいいね」と懐かしむように自分で読む子もいる、長く楽しめる絵本です。
(にこっと絵本 高橋真生)