モリスは、好きなものがたくさんある男の子。
家族でゆっくり食べる朝ごはん、絵、りんごジュース…… 楽しいことがたくさんある学校も、もちろん好きです。

『モリスくんとオレンジいろのドレス』クリスティーン・バルダチーノ作、イザベル・マランファン絵、まえざわあきえ訳、世界文化社、2025 amazon
ある月曜日、モリスには、これまでで一番わくわくすることがありました。
それは、学校のリサイクル・コーナーで、オレンジ色のドレスを見つけたこと。
大好きなトラや、ママの髪の毛と同じ色で、触れるとシュッシュッシュッ、着て動くとカサコソカサコソと音がするドレスです。タンタタタンと音がするおしゃれな靴もありました。
でも、みんなはモリスをからかったり、否定したりするばかり。中には、ドレスを引っ張って脱がせようとする子までいます。
「こんなの、きちゃだめ! モリスはおとこでしょ!」
「モリスの ては おんなの て」
「おまえといたら、おんなが うつるからな」
なんとも、きついことばです。毎日毎日こんなことを言われて、モリスも、とうとう金曜日にはおなかが痛くなり、学校を休んでしまいました。
その後、ママとねこのムーと一緒にゆっくり過ごし、元気になってきたモリスは、次の月曜日、あることをきっかけに、ドレスのまま、男の子たちとまた一緒に遊べるようになったのでした。
「ドレスをきたっていい」にモヤッ?
さて、再びモリスくんと遊んだ男の子たちは、こんなことを言いました。
「うちゅうひこうしが ドレスをきたって いいよな」
「そうだよ。たいせつなのは、ぼうけんするきもちが あるかってことだよ」
「よかった!」と喜ばしく感じる方もいれば、先週との落差に「えー……」とあきれてしまう人も、「まあ、みんな、好きに言うものだよね」と遠い目をする人もいるのではないでしょうか。
実は、モリス本人は、それを黙って聞いていたんです。
なぜかって?
だって、そんなこと、とっくに わかっていましたから。
ちなみに男の子たちと遊んで以降、ドレスを着るモリスの周りが落ち着いたかと言えば、そうでもありませんでした。
男はドレスなんか着ないんだ、と言い続ける子も、やっぱりいます(現実的ですね)。
でも、モリスはためらいません。ぼくはこれが好きなのだと、堂々としています。
ジェンダーがテーマ、でもそれだけではない!
この絵本は、タイトルが『モリスくんとオレンジいろのドレス』ですから、ジェンダーがテーマの絵本という印象が強く、その学びのために手にとる人も多いのではないでしょうか。
逆に言うと、そのテーマに縛られて、読まないことを選ぶ人もいるかもしれませんが、それは、とてももったいないと思います。
「だれが何と言おうと、好きなものは好きでいい」「してみたいことはしてみよう」と、背中を押してくれる絵本でもあるからです。
「モリスがそんなふうに思えるのは、安心できる場所があるから。自分もモリスのママのようになりたい」と言うお母さんもいます。
好きなものがたくさんあるって、幸せですよね。
「違う」ことを否定し合うより、好きなことを語り合う方が、どれだけ楽しいでしょうか。お互いを全肯定したくなる、そんな絵本です。
にこっとポイント
- ジェンダーという枠組みだけでなく、他者との違いについて考え、「違う自分」「違う他者」を肯定できるようになる絵本です。
- 作者であるバルダチーノが、小学校の教員をしていたときに、男の子がドレスを着たせいで母親に叱られているのを見たのをきっかけに書かれたお話だそうです(出版社による)。
(にこっと絵本 高橋真生)