昔、あるところに、かかさんと息子が暮らしておりました。

『くわばらくわばら』長谷川摂子文、飯野和好絵、岩波書店、2009 amazon
ある日、息子は値段の高いナスの苗を買いました。
せっせせっせと大事に育てる息子の気持ちに応えるかのように、ナスは、ずんこずんこと大きくなり、とうとう天を突き通してしまうほど伸びていったのでした。
七夕の日、ナスをお供えするために、息子はナスの「木」に登ります。そこで出会ったのは、なんと雷神様とその娘2人!
息子はナスのお礼にともてなしを受けたり、雨を降らせるお手伝いをしたり、大はしゃぎです。
大笑いしすぎた挙句、「つい」雲を踏み外して、あっという間に真っ逆さま。
でも、大丈夫。畑の桑の木の枝に引っ掛かって、なんとか助かりました。
雷神様は、「あいやー」と泣いて残念がった娘たちの気持ちを思い、桑の木には雷を落とさないことにしたのです。
軒に桑の枝を挿したり、「くわばらくわばら」と唱えたりする雷よけのおまじないは、ここから始まったとも言われます(諸説あるうちのひとつです)。
小さな絵本から入り込む、のびのびと広い世界
イギリス民話の「ジャックと豆の木」みたい! 「つい」落ちるって!! と、なんだかツッコミたくなるような昔話ですね。
でも、おおらかで、なんとも楽しい絵本なのです。
小さな横長の絵本で、開いてもA4の長い方より少し大きいくらいなのに、世界が広く広く感じられるのは、飯野さんの絵の効果かもしれません。
上から下を見下ろしたり、空を見上げたり、すごく遠くから見てみたりという変化があります。
登場人物たちの表情も、大きくて、スケールの大きいお話にピッタリです。
私は、ナスの花が、百も千も万も咲いて、木に霞がかかったようになったというシーンの絵がとても好きです。こんな景色が、本当に見られたらいいのに!
方言とたっぷりのオノマトペも効いていて、3・4歳くらいから、小学生、そしてお年寄りも、楽しんでくれる絵本です。
雨の日に、雷の日に、そして七夕に、おすすめです。
にこっとポイント
- 七夕の日、天まで届くナスの「木」を登っていくと、そこには雷神様がいて……。雷よけの桑や「くわばらくわばら」のおまじないの起源のわかる昔話絵本です。
- 「天井に昇って雷神の聟となろうとした息子の話」(佐々木喜善『江刺郡昔話』郷土研究社所収)をもとに再話したものです。
(にこっと絵本 高橋真生)