かさどろぼうは、だあれ?
『かさどろぼう』シビル・ウェッタシンハ作・絵、いのくまようこ訳、徳間書店、2007 amazon
まだかさのない村に住むキリ・ママおじさん。その村では雨が降ると、バナナやヤムいもの葉っぱやきれをかぶります。そこでおじさんは、町でかさを買い、皆に見せびらかそうとしますが、コーヒーのお店でおしゃべりしている間に、かさがなくなってしまいました。
もう1度、もう1度……と、何度かさを買っても、結果はいつも同じです。とうとうおじさんは、犯人を捕まえようとかさにしかけをすることにしました。
魅力的なスリランカの村と人々
舞台は、湿った空気に、果物やコーヒーの香りが満ちたスリランカの小さな村。植物も服も建物も― つまり何もかも落ち着いた色味ながらカラフルで、どしゃ降りの雨の中裸足で歩く人々は、笑顔で気持ち良さそう…… そんな、のびやかなところです。
同じように雨の多い日本ですが、暮らしは全く違いますね。
キリ・ママおじさんも、いかにもこの素朴な村に住んでいそうな、正直で、ちょっぴりうっかり者で、たくましい人です。子どもたちは、おじさんに思わずツッコミを入れたくなるようですが、かさをなくしては全身全霊で悲しむおじさんを、じわじわ好きになってしまいます。
お話は分かりやすく、でも、かさどろぼうの謎を解くドキドキもあり、小さな子も大きな子も喜ぶ絵本です。スリランカと出会うきっかけにもなりますね。特に雨の季節には、このおおらかな空気を思う存分吸い込んで、元気になってほしいと思います。
それから、夕方や夜の森もお見逃しなく。まもなく沈む太陽、静かで明るい月、それぞれの光の満ちた風景に、色の美しさを堪能できます。
この絵本は、1986年に福武書店から刊行された絵本の復刊です。
にこっとポイント
- おおらかで楽しい雨の物語は、幅広い年齢で楽しめます。
- スリランカという国と出会うきっかけになります。
(にこっと絵本 高橋真生)