PICK UP! ヘビの絵本

「サンタクロースに会えないのはどうして?」
「うちには煙突がないのに、どうやって入るの?」
「サンタさんは、どうしてプレゼントを間違えないの?」

今まで、世界中でどれだけの人が、サンタクロースについてそんな疑問を持ったのでしょうか。

その不思議と期待と不安に応えてくれるのが、こちら。『天使のクリスマス』です。

天使のクリスマス

『天使のクリスマス』ピーター・コリントン作、ほるぷ出版、1990 amazon

作者のピーター・コリントンは、絵本の冒頭に

この本を、えんとつのない家にすむ 子どもたちに贈ります。

ということばを寄せていますが、この絵本を読むと、サンタクロースの秘密が、少し、わかってしまうのです。

たとえば煙突のない家の場合、サンタクロースは、私たちと同じように玄関から入ってくるようですよ。

普通と違うのは、鍵を開けたり、サンタクロースを誘導したりする天使たちがいること。

天使は、とても小さくて、とてもかわいくて、とても優秀。サンタクロースがうっかりプレゼントを落としてしまい、その音で女の子が目を覚ましてしまう、なんていうハプニングがあっても、パパッと対処してくれるのです。すばらしい!

(ちなみに、そのときのサンタさんのぎょっとした表情や仕草がユーモラスで、私はいつもここで笑ってしまいます)

そんなふうに、冒頭に挙げたような謎が少しずつ解明されていくのですが、実はこの絵本は、140もの絵で構成された、文字なし絵本なのです。

文字なし絵本は苦手、という方もいらっしゃいますよね。けれども、『天使のクリスマス』にはマンガのようなコマ割りが使われているので、かなり読みやすいと思います。

また、ことばがない分、絵を集中して見ることで物語に入り込みやすいのですが、これは、見事な絵のなせる業。雪景色、天使の掲げるキャンドルの灯り、プレゼントをもらう女の子の部屋など、細やかに美しく描かれています。

それから、ないのは絵だけではありません。人々が寝静まった時間、ということもあるのかもしれませんし、サンタクロースたちの秘密を見ているせいか、はたまた雪のせいなのかもしれません。いずれにしても、そこはひっそりと静まり返り、音がないのです。

ですから、一人で静かにページをめくってみてください。派手ではないけれど、穏やかで、楽しくて、誠実な…… クリスマスならではの幸せに、きっと心が満たされるでしょう。

にこっとポイント

  • 煙突のない家に住む子どもたちに贈られた、穏やかで美しく、そして楽しい文字なし絵本です。
  • サンタクロースを信じたい、でも疑ってしまう…… というお子さんには、ぜひ読んでいただきたいです。
  • サンタクロースのお手伝いをしている天使は、作家の江國香織さんの巻末の解説によると特定の人をマンツーマンで護る「守護天使」なのだそう。でも、その点にこだわらなくても(子どもに説明しなくても)充分楽しめます。

(にこっと絵本 高橋真生)

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