『へいわとせんそう』たにかわしゅんたろうぶん、Noritakeえ、ブロンズ新社、2019 amazon
戦争が終わってへいわになるんじゃない 平和な毎日に戦争が侵入してくるんだ。
谷川俊太郎
「へいわのボク」と「せんそうのボク」。見開きに並ぶ左右の対比は、モノクロのシンプルな一場面ですが、大きな状況の違いを突きつけてきます。
「へいわのワタシ」は文房具も明かりもある中で勉強していますが、「せんそうのワタシ」は何もない場所に腰かけ悲しそうな顔をしています。
「せんそうのチチ」は子どもと遊んでいるのに、「せんそうのチチ」は武装し不安そうな顔で駆けています。
そして「へいわのハハ」は子どもを膝にのせ穏やかに本を読んでいるのに、「せんそうのハハ」は子どもを守るように抱き厳しい顔をしている……。
隣り合ったページの間にある大きな状況の差、表情の違いに、ページをめくる私たちは「せんそう」をいうものを真正面から見据えることになるのです。
研ぎ澄まされた比較が訴えかけてくるもの
この絵本は、シンプルなイラストが魅力ですが、手に取りページを開いた途端、淡々と、でも、強く強く、平和と戦争の現実をわたしたちに突きつけてきます。
ページを開くわたしたちをまっすぐに見据えるその顔。「みかたのかお」「てきのかお」も、変わりません。その心のうちはどのようなものなのでしょう。
「みかたのあさ」も「てきのあさ」も同じ、「みかたのあかちゃん」「てきのあかちゃん」も同じなのです。同じように美しく、同じように愛されて、同じように幸せであることを願わずにはいられません。
わたしは、子どもを持つ身になって、平和の中で健全に子どもたちには世界を見せてあげたいとより感じるようになりました。この絵本は、今の平和を守りたい、という大きな原動力となるはずです。
「てき」とは? 「みかた」とは? 「せんそう」とは?
平和しか知らないことは、とても幸福で恵まれていること。しかし、戦争を知らない世代に、戦争のことを伝えていくのは、私たち大人の使命でもあります。
そして、何よりも怖いのは、戦争により平和な日常が失われてしまうこと。それを谷川俊太郎さんは教えてくれます。
今の時代にも、世界のどこかで銃を取り、爆弾に怯え、戦争に苦しむ人がいるという、その現実を知ること。
また、原油の高騰、物流への影響、難民問題と、いま日本で戦争が行われていなくても、世界のどこかの戦争は少なからずわたしたちに繋がっています。
平和が損なわれるとは、どういうことか。多くを語らずに、深く語りかけてくる、秀逸な絵本です。
にこっとポイント
- 平和が損なわれるとは、どういうことか。多くを語らずに、深く語りかけてくる、秀逸な絵本です。
- 白黒のシンプルなイラストレーションだからこそ、そこから読み取れるメッセージは無限です。大人と子ども、一緒にページをめくりながら語り合いたくなる絵本です。
- 平和な日常と戦争を比較する視点が、子どもたちには理解しやすいのではないかと思います。幼い子どもでも、小学生でも、大人でも、幅広くこの絵本を味わうことができるはずです。
(にこっと絵本 Haru)