どうして、ぼくの耳には、音が聞こえるんだろう?
この音とあの音は、どうしてちがうんだろう?
なぜ、聞こえる音と聞こえない音が、あるんだろう?
『ぼくは発明家』は、「電話の父」と知られる発明王アレクサンダー・グラハム・ベルの伝記です。
『ぼくは発明家 アレクサンダー・グラハム・ベル』メアリー・アン・フレイザー作、おびかゆうこ訳、廣済堂あかつき、2017 amazon
うまく声が出せない人たちに、声の出し方や話し方を教える仕事をしていたお父さん。耳が聞こえにくく、「ホースの耳」(表紙でベルが持っている道具)を使っていたお母さん。そして、「どんな音も聞かずにはいられない子ども」のアレック(ベル)。
お父さんはベルに、音は振動であること、なぜお母さんの耳が聞こえないのかを教えてくれます。
多くの発明家や科学者の逸話には、子どものころ「知りたがり」だったことが記されていますが、ベルもその一人。気になったことは確かめずにはいられなかったり、みんなをびっくりさせるものを作ったりと、目の前の謎を解き明かすことに夢中になります。
けれど、ただそれだけでなく、ベルは「ことばを相手に伝えたい」「誰かを助けたい」という強い気持ちを持ち続けました。
自分の興味と気持ちにまっすぐに、電話(音を伝える機械)に向かっていくベルの姿に、心がじんとします。
ベルの一生という視点ですと、失敗についてはサラッと触れられているだけですし、電話以外の多くの発明についてもほとんど出てきません。予備知識があるとその点が物足りないかもしれませんが、それ以上に、この発明王の純粋な思いと生き方伝わってくる伝記です。
さらに、この絵本で特徴的なのは、絵の中に写真が多用されていること。作者あとがきによると、このアイデアは、ベルが幼いころから当時まだ珍しかった写真に夢中だったエピソードから思いついたそう。また、時代背景や関連知識などがていねいに書かれているのも、おもしろいだけでなく、発明家の伝記にピッタリだと思います。
ちなみに、かのヘレン・ケラーにサリバン先生を紹介したのが、ろう者・難聴者の教育に携わっていたいたベルだったのをご存じでしょうか。絵本にも、ボストンで先生をしているベルの姿が描かれています。
科学絵本が好きなお子さんにもすすめたい伝記
「科学絵本や図鑑が好きで、物語は全く読まないお子さんの読書の幅を広げたい」というご相談を受けることがありますが、そんなときには、発明家や科学者の伝記もおすすめです。
いつも自分が触れている世界に携わっている人、またその世界の著名人というのは、子どもにとってのヒーローですから、大人が思う以上に心を揺さぶられることがあるようです。
児童書やマンガでもさまざまな伝記が出ていますが、本を読み慣れていない子にとって、絵本は手にとりやすく、理解しやすいメディアだと思います。特に、マンガには読みやすい印象がありますが、その厚さや解説部分の細かさに気持ちがくじけてしまうお子さんもいるので、そんなときには絵本を紹介してみてくださいね。
小学校低学年の読書感想文にもおすすめです。
にこっとポイント
- 「電話の父」ベルの伝記絵本です。発明家や科学者、開発者に憧れるお子さんには特に喜ばれます。
- 科学絵本が好きなお子さんの、読書の幅を広げたいときにもおすすめです。
- 「耳の日」である3月3日も読みたくなる絵本です。ベルの誕生日も、サリバン先生がヘレン・ケラーと出会ったのも、なんと3月3日なのです!
(にこっと絵本 高橋真生)