
『おはぎちゃん』やぎたみこ作、偕成社、2009 amazon
秋のはじめの頃、縁側で、おはぎを食べていたおじいさんとおばあさん。
そのおじいさんのおはしから、おはぎがひとつ、ころころころ……。
まてまて、おはぎ。わしの おはぎちゃんやーい
おお、現代のおむすびころりん? …… と思いきや、「おーい」とおじいさんを呼ぶ声がします。
声の主は、うっかりおはぎちゃんの下敷きになってしまった、カナヘビでした。
おじいさんは、声に気づかずに行ってしまいましたが、おくさんカナヘビが助けてくれました。
かわいくて、いいにおいのするおはぎちゃんも、カナヘビ夫婦が育ててくれることになって、一件落着。
お庭に住む生きものたちも、おはぎちゃんに興味津々です。
揺りかごはクモのハンモック、ミルクはミツバチの集めた蜜、哺乳瓶はヘクソカズラ、いないいないばあは、ミミズ・ミノムシ・ダンゴムシの担当です。

おはぎちゃんは、すくすく育ち、ハイハイもできるようになりましたが、その頃には、新たな悩みが生まれていました。
それは、みんなが冬眠する間、おはぎちゃんをどう守ったらいいかということで……。
ゆっくり味わいたい、小さな緑の王国
舞台はおじいさんの家のお庭なのですが、縁側は広々、木が何本も植わっていて、いくつもの盆栽が飾られた棚があり、もちろん(?)ネコもいる、そんな素敵なところなのです。

登場する生きものもとても多く、まさにそこは緑の王国といった風情で、私は、ときめかずにはいられませんでした。
一見穏やかに見える王国にも、実は危ないから近づいてはいけないという床の下というエリアもあり、その不穏さもまた魅力だったりします。
マンション住まいのお子さんには、縁側も床の下も新鮮なよう。
そもそも、おはぎそのものを知らなかったり食べたことがなかったりする子もいますので、読む前に、こんなお菓子だよ、と説明してあげてもいいかもしれません。
細やかに描かれた絵は見どころが多く、見つけるうれしさもありますし、物語よりも虫のノンフィクションのような絵本を好むお子さんにも喜ばれています。
表紙を開いたところには、絵本に出てくる皆さんが紹介されているので、ぜひご覧ください。本文中に出てこないお名前(しかも遊び心たっぷり!)がわかって、さらに楽しめます。
さて、おはぎちゃんは、いったいどうなるのでしょうか? もちろんハッピーエンディングですので、安心して、手に取ってみてくださいね。
にこっとポイント
- 庭にころころと落ちてしまったおはぎちゃんと、そこに住む生きものたちのふれ合いの物語です。
- 大人は懐かしさ、子どもは新鮮さを感じるような舞台ですが、やさしくてユーモアのあるお話も、自然も、両方楽しめます。年齢・好みとも幅広く喜ばれる絵本です。
(にこっと絵本 高橋真生)