私は、こんなにも激しく降る雪には、まだ出会ったことがありません。
『ゆきみち』梅田俊作・佳子作、ほるぷ出版、1986 amazon
男の子とお父さんが、終点でバスを降りました。
おばあちゃんちで、お母さんが赤ちゃんを出産したのです。男の子はお兄ちゃんになりました。
バス停からおばあちゃんの家までの道を、吹雪の中、お父さんと歩きます。お父さんが踏みつけたしましまもようの足跡の上を、ぎざぎざ山がたの男の子の靴が踏みつけます。
進んでいくうちに、お地蔵さんを見つけました。
「れんげばたけのおじぞうさんだ」。男の子は、春の頃を思い出します。
「れんげばたけ」で蝶を追いかけたこと。ハチをつまんでしまって、刺されたこと。泣いていると、おばあちゃんが慰めてくれたこと。
「ぶらんこの木」のところでは、夏の頃を思い出します。田んぼで働くみんなのために、冷たい麦茶を運んでいたら、転んでしまったこと。
「兄妹杉」のところでは、秋の頃を思い出します。お母さんの具合が悪くなってしまい、おばあちゃんの家で寝ていることになったこと。お母さんと離れて暮らすのが、寂しくて仕方なかったこと。
思い出と現実を繰り返しながら、男の子は、おばあちゃんの家までの道を進んでいきます。
吹雪の中を一歩いっぽ進んでいくその姿は、「お兄ちゃんになる」という変化に戸惑いながら、不安と喜びで揺れ動いているようにも見えます。
迎えに出てきたおばあちゃんは、思わず涙ぐんでしまいました。一生懸命歩いてくる姿に、心が動いたからでしょう。
描かれている雪は、猛吹雪です。
本当にこれほどまでに雪は強く降っていたのか。バス停からばあちゃんの家までは、どれくらいの距離なのか。
事実とは異なるかもしれないけれど、子どもの心の感覚が、読む側の胸にぐっとささる作品です。
吹雪の様子と比べて、春・夏・秋のページでは、イメージがぐっと変わった穏やかな景色が広がります。この変化は、吹雪の厳しさをより引き立たせ、男の子の揺れる心を表しているように感じます。
そして最後のページでは、屋根に雪を厚く積んだ様子が描かれていますが、家の中では家族が温かい囲炉裏端で談笑しているはずで、そうなると今度は雪が温かいものに見えてくる気がします。不思議ですね。
にこっとポイント
- 田舎で出産したお母さん。吹雪の中、男の子とお父さんは、おばあちゃんの家に向かいます。男の子の心情をていねいに描いた作品です。
- 鮮やかな季節の移り変わりが、それぞれをより引き立たせます。また、それらは男の子揺れる心を表しているように感じられます。
(にこっと絵本 森實摩利子)