『マドレーヌといぬ』ルドウィッヒ・ベーメルマンス作・画、瀬田貞二訳、福音館書店、1973 amazon
パリの、つたの絡んだある古い屋敷に、12人の女の子が暮らしていました。2列になって、9時半に、降っても、照っても、散歩に出かけました。
……というようなお決まりの描写から始まる、マドレーヌシリーズ。寄宿舎に住まう12人の女の子たちと、シスターのミス・クラベルのおりなすパリでのにぎやかな日常が描かれています。
ページをめくっていると、キャッキャ、ワイワイとかしましい12人の女の子たちの声が聞こえてくるようで、寄宿舎がとても魅力的にうつります。
なかでも、一番おちびさんなのにお転婆なマドレーヌはとってもキュート。
今回紹介するシリーズ2作目の『マドレーヌといぬ』では、マドレーヌは、川へ落ちてしまいます。
それを救ったのが1匹の犬でした。
みんなは、その勇ましい犬を連れて帰り、ジェヌビエーブと名づけて一緒に暮らします。
しかし、学校検査で来た評議員さんたちが、規則だから「犬は学校に入るべからず!」と追い出してしまうのです。
嘆き悲しんだ子どもたちとミス・クラベル。
でもマドレーヌは、ジェヌビエーブを追い出してしまった評議員さんたちに、
「いいんちょうどの! おぼえていなさい!」
「ジェヌビエーブほど、えらい いぬはないわ。あなたには、てんばつが くだりますから!」
と涙をこらえながら啖呵を切るのです。読者にとっては、胸のすくような爽快な場面ですよね。
小さなその姿は、元気と正義にあふれています。
さらに、先を見通すような冷静さと、穏やかな愛を感じるミス・クラベルもわたしの大好きな登場人物です。
瀬田貞治さんの訳は、古きよき日本語が使われた、なんともクラシックな文章です。そしてぜひ、原文にもふれてみてください。韻をふんだリズムを感じる文章が心地よく感じます。
また、マドレーヌたちの様子は黄色を基調としたシンプルな絵柄で、パリの街並みはシックな色合いで描かれています。その対比も楽しみどころ。
マドレーヌたちの騒動がくり広げられるパリの情緒ある街並みを、じっくり味わうことができます。
さて、ジェヌビエーブと子どもたちが迎えた結末とは? 一連の騒動と、くすりと笑える結末に、あたたかな気持ちが残ります。
たくさんの魅力にあふれたマドレーヌたちのパリでの毎日、ぜひ本作を通して、皆さんものぞいてみてくださいね。
にこっとポイント
- 寄宿舎に住まう12人の女の子たちと、シスターのミス・クラベルのパリでのにぎやかな日常が描かれたシリーズの2作目。元気と正義にあふれたマドレーヌの姿にきゅんとします。
- 本作の訳者・瀬田貞治さんが文を手がけた『きょうはなんのひ?』という絵本の中に、なんと『マドレーヌといぬ』が登場しています。思いがけないコラボ(?)に、発見したときにはついうれしくなってしまうはず。
(にこっと絵本 Haru)