『かえるのごほうび 絵巻「鳥獣人物戯画」より』木島始作、梶山俊夫レイアウト、福音館書店、2021 amazon
「しぃーっ」森の中を覗いてみると、動物たちのお祭りをしているようです。
「えんやか ほうい」とにぎやかな雰囲気の中、一等賞のごちそうがたくさん運び込まれています。腕くらべや力くらべ、的あてに興じる動物たち。
さらに、うさぎとかえるの相撲の大勝負で大盛り上がりするのですが、ある騒動が起きて……。
動物たちのユーモラスな世界「鳥獣人物戯画」から生まれた『かえるのごほうび』
「日本最古のマンガ」とも言われる、「鳥獣人物戯画」は、詞書もない、切れ目もない絵巻です。
そして、『かえるのごほうび』は、その「鳥獣人物戯画」を組み立て直して構成された絵本です。
それにしても、生成りの画面の中に、墨一色で描かれているだけなのに、なんでこんなにおもしろく感じ、惹きつけられるのでしょうか。
うさぎやかえるだけでなく、ねこやきつね、さるやねずみなど、他にもたくさんの動物たちがこの物語には登場します。
それらの動物たちが、人間のように、お坊さんの袈裟を着ていたり、烏帽子をかぶっていたり、笑って騒いで、偉そうにして、悪巧みしたりしている姿は、なんともユーモラスです。
山深い森の中では、人間たちと同じように、動物たちも相撲をしたりお葬式をしたり、はたまた喧嘩をしたりして過ごしているのかもしれない― ページをめくるたび、テンポのよい耳に心地よい文章に導かれるように、自然と引き込まれていくのですが、それはどこかのぞき見のような感覚です。
「鳥獣人物戯画」の一つの解釈である『かえるのごほうび』は、大人はもちろん子どもも楽しめる、ユーモラスなしあがりです。
にこっとポイント
- 詞書も切れ目もない「鳥獣人物戯画」の絵巻から、一つの解釈としての物語が構成されています。動物たちが生き生きと動きまわるユーモラスな姿を、語りに導かれながら楽しむことができます。
- 「高山寺」という印が、一部裏返しの字になっているところがあります。そんな箇所に気付きながら読んでみてほしいという、作者の願いでもあるようです。
- 小さいお子さんには、ボードブックでもう少し易しい簡単な内容の「ちょうじゅうぎが こどもびじゅつえほん」(便利堂、2015年)もおすすめです。こちらは、各ページの背景がカラフルに彩色されていて、小さなお子さんの目を引く作りになっています。
(にこっと絵本 Haru)