『よるのかえりみち』みやこしあきこ作、偕成社、2015 amazon
お母さんに抱かれて家路に着く、うさぎの子。たくさん遊んで、眠くなってしまった様子です。
レストランや本屋さんも店じまいをした後の人気のない夜道は、とても静か。煌々とした灯りのもれるそれぞれの窓の中には、人びとのさまざまな「夜」が浮かびあがっています。
家に着いてそっとベッドに寝かされたうさぎの子は、人びとの更けていく夜の先を想像します。
そして、同じ空の下にある、けれども、それぞれにくり広げられているいくつもの夜を思い、「おやすみなさい」と眠りに落ちていくのでした。
さまざまな人たちの夜に耳をすませて、思いを馳せて
夜は、子どもにとって未知の世界であり、魅力的な時間です。この絵本のうさぎの子を通して感じるのは、大人たちの夜の世界をのぞいたような、わくわくした気持ちと幸福感です。
よるって とても しずかだな いつもと ちがって だあれも いない。
電話で話をしている人、料理をしている人、くつろいでいる人、パーティーをしている人、さよならをいっている人― 夜の中に浮かび上がってきた、さまざまな人びとの夜は、静かに静かに、更けていくのです。
いつものよる とくべつなよる みんな いえに かえって ねむりに つく
暗くなった夜道の中に浮かび上がる窓の中にある、多種多様な夜。その一人ひとりの夜が更けていく先にある生活に、ぜひ皆さんも思いを馳せてみてください。
『よるのかえりみち』の登場人物は、人ではなく、動物たち。現代の寓話のようにも感じられる世界観を作り出し、夜の秘密めいたベールで包み込んだような、静かでしっとりとした物語になっています。
子ども時代の記憶とのリンク― 大人の楽しみ方
どこかでうとうとしてしまったとき、父や母に抱かれて、そっとベッドに運んでもらう安心感。気持ちのよいまどろみの中、「寝ちゃってる」なんて話す声が聞こえてくる……。
みなさんには、このような経験はないでしょうか。
わが家の子どもたちも、夢とうつつの間にいる、そんなときが好きなようです。
外出先から車で戻る途中、子どもたちが眠ってしまうと、彼らを抱き上げて、ベッドに運びます。
時に、狸寝入りしていることなんかもありますが、そこはあえて知らないふり。きっと、この時間が幸せなんだな。わたしが子どもの頃、くすぐったいような幸せを感じていたように― そう感じるからです。
くったりと預けられた身体や首に回された手の小ささやあたたかさを感じ、頬をなでて寝顔を見つめる時間は、親として、大人として、幸せを感じられるひとときです。
母に抱かれて家路に着くうさぎの子を通して、みんなが眠りに向かっていく夜は、幸福にあふれた時間なのだ、そうこの絵本は思い出させてくれるのです。
にこっとポイント
- 静かでしっとりとした、そしてとても幸せな気持ちになる物語です。
- 表紙が非常に印象的です。暗い夜道の中に、ぽつんと佇む子どもを抱いたうさぎの母。パッとみた印象とは違う、幸福感を得られる絵本体験ができるはずです。
- この絵本を通して、親に抱かれて眠った心地よい記憶と、大人として眠る子どもの重みを感じる幸せを、紐づけて味わうことができます。
(にこっと絵本 Haru)