PICK UP! クリスマスの絵本

ぼくからすれば、人は、だれもが同じ「人間」なんですけどね……。
いつのまにか、まわりはぼくたちの理解できない世界になっていたのです。

『オットー 戦火をくぐったテディベア』は、歴史の濁流にのみ込まれたテディベア・オットーの自伝です。

オットー戦火をくぐったテディベア
『オットー 戦火をくぐったテディベア』トミー・ウンゲラーさく、鏡哲生やく、評論社、2004 amazon

ドイツの工場でていねいに作られたオットーは、デビッドという男の子への誕生日プレゼントになります。それからは、デビッドの親友オスカーといつも三人でいたずらばかりの楽しい毎日。

ちなみに、オットーの頭についているしみは、デビッドとオスカーが、オットーに文字を書かせようとしたときにできたものです。本当はオットーは、タイプライターを使う方が、ずっと楽だったんですけれど、ね。

そんな三人に、運命の日がやってきます。デビッドは他の人とは違うことを示す、「ユダヤ人」と書かれた黄色い星を身につけなければならなくなりました。

戦争です。

やがて三人はバラバラになり、オットーは銃で撃たれたり、アメリカの連隊のマスコットになったり、ゴミ箱に捨てられたりしながら、あちこちを転々とします。

けれども、三人は奇跡的に再会します。家族を失い、何十年もの時がかかりましたが、そう、「ぼくの人生は、やっと、もとどおりになったのです。平凡だけど平和な人生。そして、ゆったりとながれる時間」。

オットーは、「自分で動かない」ぬいぐるみです。デビッドを追いかけたり逃げたりはしませんから、その分、オットーが運命に翻弄される様子や、有無を言わさず人を巻き込んでいく戦争というものの悲惨さが強く伝わってきます。

戦争は、全ての人の、そして全ての「モノ」の幸せを壊してしまう― 何気ない日常の幸せを、この絵本は思い出させてくれます。

教科書でも紹介されている、「読んでほしい」絵本

『オットー』は、小学校4年生の教科書でも紹介されていますが、表紙を見て「悲しそう」「暗そう」「絵が怖い」などと思うようで、なかなか自分からは手にとってもらえません。

けれど、その絵こそ、よく見てほしいのです。特に豊かな表情とその変化には、自然と心が惹き付けられます。

大切に作られ、オットーを愛した人々の手で補修されたオットーの縫い目。そして、よく見、考える力を持っているオットーの、キラキラした目と深く沈んだ眼差しの落差…… オットーが訴えてくるものを、しっかりと伝えていかなくてはと思っています。

にこっとポイント

  • 戦争の悲惨さ、日常の幸せを思い出させてくれる絵本です。テディベアであるオットーの目を通して描かれるので、子どもにも読みやすいと思います。
  • 作者は、『すてきな三にんぐみ』などで知られるトミー・ウンゲラー。ウンゲラー自身、子どもの頃、戦争やナチスの占領を体験しています。

(にこっと絵本 高橋真生)

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