こんなお便りをいただきました。
周りの人はみんなすごくて、自分には何もいいところがありません。頭では「自分にもいいところはある」と思うのですが、あまりに小さなことで、意味がないと感じています。自分の良さを認められるようになる絵本はありますか?
ある失敗をきっかけに、クヨクヨするようになってしまった、という方です。
きっと、その「小さないいところ」は、周りにとっては「大きないいところ」なのではないかな、と思うのですが、それはさておき、そんなときにピッタリの絵本をご紹介しますね。
『ポコタのきのみ』です。
『ポコタのきのみ』しもかわらゆみ、世界文化社、2023 amazon
秋の森。動物たちは、冬支度をしています。
りすやねずみが木の実を土にうめているのを見て、たぬきのポコタもまねしてみることにしました。冬になっても、木の実を食べられたら素敵です。
いっぱい、いっぱい、うめて、雪が降るのが楽しみになったころ、ポコタはハッと気が付きます。
そして、聞きました。「ねえ、どうやって きのみを さがすの?」。
りすとねずみは答えます。自然と覚えているんだよ、と(※実際は、りすたちもうめたところを忘れることがあると言われています)。
ポコタは、びっくり、大ショック! だって、どこにうめたのかちっとも覚えていないのですから。
ところが、今度はりすとねずみが目を丸くします。そして、一生懸命説明してくれました。
ポコタは、冬になる前にうんとたくさんの果物や木の実を食べることができること。だから、冬でも元気でいられること。自分たちはそれができないから、木の実をうめるのだということ。
どっちも すごい やりかたなんだよ。
食いしん坊がすごい、なんて考えたことのなかったポコタでしたが、ふたりのおかげで、うれしい気持ちになったのでした。
そして雪の中、ポコタは思います。自分がうめた木の実は雪がとけたら小さな芽を出すのかしら……、と。
ふんわりとあたたかい気持ちになる
「みんなすごい!」という作者のメッセージがストレートに伝わってくるのですが、「刺さる」というよりは「ふんわりとあたためてくれる」絵本です。
また、写実的な絵と穏やかな色遣いで、いわゆる「かわいい」のが苦手な方にも好まれますし、動物たちの表情がとても愛らしいので、リアル系よりもファンタジー系が好きな方にも喜ばれます。
ことば遣いもややカジュアルなので、本を読み慣れていない方にも読みやすいでしょう。
少しずつ、秋めいてきた今日この頃。ひんやりした空気を感じたら、あたたかい飲み物を用意して、ゆっくり読んでいただきたいなと思います。
もっとたくさん読みたくなったときには、にこっと絵本でご紹介している「ひとやすみ」「多様性」などのジャンルの絵本もおすすめです。
にこっとポイント
- たぬきのポコタを主人公に、「みんなすごい!」というメッセージを伝えてくれます。
- 写実的な絵ですが、動物たちは実に表情豊か。その愛らしさに思わず笑いがこぼれます。心がふんわりあたたまる絵本です。
- 「個性は才能である」という熱い「あとがき」もぜひお読みください。絵本と違い、リスたちも木の実をうめた場所を忘れてしまうことがあるということについても、作者の考えが綴られています。
(にこっと絵本 高橋真生)