おなじみの五味太郎さんの絵本です。わかりやすい絵が、子どもの興味を引き出してくれます。
『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ 』五味太郎、偕成社、1984 amazon
とぼけた顔のわにさんが、片手で蔓(つる)にぶら下がっています。もう片方の手は口元を押さえています。続いてぼやき……。こちらも口元に手を当てています。
わにさんは、歯医者へ行くところでした。
私も子どもの頃は、歯医者さんはもちろんのこと、お医者さんって、好きではありませんでした。痛いことされる? 注射もする? 苦い薬も飲む?…… といやなことばかりを考えてしまったことを思い出します。
でも、もし患者さんがわにだったら、歯医者さんだって患者さんをこわいと思うのかもしれません。
わにが「どうしよう……」と思えば、はいしゃさんも「どうしよう……」。
実はこの絵本は、こんなふうに、最初から最後まで同じせりふでお話しが進んでいきます。わにさんとはいしゃさんの字体が違うので、この字体に合わせて少し声色を変えて読んでみたら面白いのでは、と思いました。
保育園の5歳児に、「私がわにさんのことばを読むので、みんなははいしゃさんになって同じように言ってみてね」と伝えて読み始めたところ、子どもたちは絵と私の顔を交互に見ながら、セリフを言ってくれました。
真剣に参加してくれて、その健気さに感動してしまいました。そしてこれが、絵本の読み手として初めての新鮮な経験でした。
お家でも、大人の読み方をまねっこしながらお子さんと交互に読んでみてはどうでしょうか。
わにさんとはいしゃさんは、最後にはこわばった笑顔で別れます(大人にはわかるユーモアが効いています)。歯医者さんは歯磨きの大切さを伝えてくれています。
また1冊、すてきな絵本を見つけました。
にこっとポイント
- わにさんとはいしゃさんのせりふの字体(明朝体とごゴシック体)が違っているのが、この絵本の1つのポイントだと思います。お互いに腹の中を探り合っている表情がとても豊かで面白いです。
- 歯医者さんへ行かせるために読むことはなさらないでください。あくまでもわにとはいしゃさんの楽しいお話です。
(寄稿:絵本専門士<東京都> 鴫原晶子)