自分の好きなことを、まわりに否定されてしまう。その上、それが理由でいじめにあってしまう。そんなふうにして、自分の「好き」を封印してしまった経験のある人は、決して少なくないように感じます。
たとえば、アイドル、アニメ、小説、歴史、アート、プログラミング…… 場所が違えば、「推し」とする人がいくらでもいて、学問にさえなるものなのに、静かにそれらをあきらめてしまう人たち。
そんな人たちにぜひ届けたいのがこちらの絵本、『虫ガール ほんとうにあったおはなし』です。
『虫ガール ほんとうにあったおはなし』(ソフィア・スペンサー(虫ガール)文、マーガレット・マクナマラ文、ケラスコエット絵、福本友美子訳、岩崎書店、2020 amazon
主人公は、虫が大好きな女の子。本もビデオもお絵描きも、虫。幼稚園では、虫クラブを作って、みんなで虫の観察をします。
けれども、小学校入学を期に、何もかもが変わってしまいます。
学校に持って行ったバッタを殺されてしまったり、虫を持って行くのをやめても、からかうのをやめてくれなかったり。
「なんで あんなへんなもん すきなの?」
「かわってるよね」
ズキンズキンと胸が痛くなるようなことばが浴びせかけられます。
耐えきれなくなった女の子は、いったん虫を「おやすみ」することにしましたが、見ていられなくなったママが、行動を起こします。昆虫学者のグループに、女の子の「虫ともだち」になってほしいというメールを送ったのです。
すると、ある昆虫学者から返信があり、その協力で、女の子の元へなんと世界中からメッセージが届き始めました。
わたしとおなじくらい 虫のすきな人が、
せかいじゅうに こんなに たくさんいるなんて びっくり。
しかも その中には、おとなの おんなの人が おおぜいいたの!
それをきっかけに、女の子はテレビに出たり(「虫がすきでもいいんだって、みんなに しらせたかったから」)、昆虫学者のお手伝いをしたり…… そして、他にも好きなこともできました。
それからは、学校にいくのも ずっと らくになった。
もう ひとりじゃないって わかったからね。
ほんとうによかった!
「まわりと同じであること」がとても大切に感じられる年齢や場などは、同調圧力が強まって、自分の好きなことが否定されてしまうことが多いのかもしれません。進路について考えるとき、親や先生から、自分の道の進みたい道が理解されないこともあるでしょう。
それでも、好きであることをやめないでほしい、と私は思います。世界は広い。大人になった私は、子どものころよりもずっと、そう感じているのです。
この女の子のように、劇的にはうまくいかないかもしれません。けれども、きっといつか、楽に堂々と、自分の「好き」を語り、それを認め合える人たちと出会えるはず。
もうすぐ夏休み。自分の「好き」ととことん向き合える、そんな夏になりますように!
にこっとポイント
- 「虫好き」をまわりに理解されず、苦しい思いをした女の子が、ママのメールをきっかけに、世界中に「虫ともだち」を見つけ、いきいきと虫の世界を楽しむようになるまでを描いた、ノンフィクションです。
- 「個性」「普通」「同調圧力」「子育て」などの視点からも読めます。幼い子から、小・中・高校生・大人の方など、幅広い世代におすすめです。進路に悩んだときにも、虫嫌いの方にも。
- 終わりに、モデルとなった女の子が書いた「虫のことをもっとしりたい人に」が付いています。
(にこっと絵本 高橋真生)