NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が、人気ですね!
中心となる人物は、鎌倉幕府の二代執権・北条義時ですから、まだこれから事件は目白押しなのでしょうが、このドラマをきっかけに、源平の戦いに興味を持たれた方も多いのではないでしょうか。
『平家物語』や『源平盛衰記』は、小学生向けの読みものや学習マンガも数多く出版されていますね。けれど、私は、こちらの絵本も、ぜひ読んでいただきたい!
それは、『源平絵巻物語』。
『源平絵巻物語 第二巻 武蔵坊弁慶』赤羽末吉絵、今西祐行文、偕成社、1979 amazon
第一巻の牛若丸から始まり、弁慶、頼朝、義仲と続き、第十巻の衣川で終わります。
横長の絵本の見開きの片面にいっぱいに描かれた絵、ページをめくるのも自然とゆっくりになりますから、まさに「絵巻」の風情です。
そしてその絵は、透明感があって美しく、力強さもユーモアもあるのです。
たとえば、弁慶の修行の旅。讃岐から伊予、そして播磨へ― 1cmくらいの小さな弁慶が、春の四国を「ちょうちょのように」歩き回ります。小さな弁慶が、寝たり、泳いだりする姿は、なんとも言えずかわいらしい!
文章も、ていねいでわかりやすく、やわらかく、リズムよく、声に出して読むと、心地よく響きます。「やいやいやい」「ちくしょう」なんてセリフがあっても、不思議と、清潔感と品があります。
さらに、そんなふうに、ぐっと身近に感じられる絵本であるのに、源平の物語のはかなさも感じさせる…… というのが、私がこの絵本を見事だと思うところ。
平家物語といえば、ご存じ「祇園精舎の鐘の声」ですが、難しいことばを使ってはいないのに、無常観やむなしさがしっかりと伝わってくるのです。それはもう、顛末を知っていても(そして何度読んでも)、涙が出てしまうほど……。
読み進めると、人物像がより明確になり、ますますおもしろくなります。最後まで読み終えたら、ぜひ、好きな登場人物や場面について、語り合ってみてくださいね。「あー、そうそう、そこもよかった!」なんて、盛り上がらずにはいられません。
『源平絵巻物語』は子どもの勉強にもなりますか?
最後に、子育て中の方に時々聞かれる、学習面への効果についてお話しておきますね。
『源平絵巻物語』は、歴史の世界の第一歩としても、古典として『平家物語』を学習する中学生・高校生にもおすすめです。
絵本に描かれている事象は、史実ではなく伝説も多いのですが、大まかな流れや歴史的な背景、文化についての理解を深めることができます。
実際、古文に苦手意識のある中学生の間で、回し読みされることもありましたし、訳文を読む気持ちになれないとき、さっと読めるマンガもいいけれど、この絵本は「ちょうどいい」と言った高校生もいました。
古文も同じ「日本語」ですし、絵も含めた日本文化の豊かさを、この絵本から受け取っていたようです。そして、私は、その静かな感動こそが、学びに対するとても大きな効果だと思っています。
にこっとポイント
- 源平の戦いを描いた絵本、全十巻です。文も絵も、美しくわかりやすく、壮大な物語を身近に感じながら読むことができます。
- 歴史の世界への第一歩、古典の理解の手助けとしても。紅白戦の「紅白」の起源・「判官びいき」「弁慶の泣き所」など、現代にも残る源氏と平氏に触れてみてもよいですね。
(にこっと絵本 高橋真生)