『サウスポー』ジュディス・ヴィオースト作、金原瑞人訳、はたこうしろう絵、文渓堂、2011 amazon
そこは、スクールの廊下でしょうか。何やら怒っている様子の女の子がいます。その手に握りしめられているのは、手紙。女の子は、ある男の子の額にその手紙を叩きつけ、ずんずんと去っていきました。
「パーティーに呼んでくれなくていいからね」
「貸したもの返して」
「もと友達のジャネット」
ノートの切れ端に書かれたような、こんな手紙をきっかけに、ジャネットとリチャード、二人のけんかが始まります。
皮肉も交えたやりとりにクスッとしながら、その結末にあたたかな気持ちになります。
仲直りまでのやり取りに、きゅん!
怒りにまかせてひどいことを言って、素直になれなくて、傷つけあって、悲しくなって、仲直りをしたくて苦しくって、仲直りができたらやっぱり幸せで……。
皆さんは、こんな経験をしたことがあるでしょうか。
実は、ジャネットとリチャードの仲違いの原因は、リチャードの野球チームに、女の子が入れないということ。
けんかをするまでは、二人は、ディズニーランドのトレーナーを貸し借りしたり、金魚に相手の名前をつけたりしていたくらい仲良しだったようです。
でも、仲良しだからこそ、仲間に入れてもらえないことが悔しい。「女の子だって活躍できる!」と、ジャネットは溢れてきた思いをリチャードにぶつけたのでしょう。
ジャネットは、ちょっと強気で、なかなか素直になれない女の子です。
手紙でひどいことばを書いても、頭の中はいつだってリチャードのことばかり。本当に相手を傷つけてしまった、と気づいたら涙がこぼれてきてしまいます。
そんな涙に、リチャードは譲歩の案を出しますが、ジャネットはどうしたでしょうか? そのめげない姿が、もう、かわいくってたまりません。
テキストのみだった原作に、はたこうしろうさんの外国の雰囲気を感じさせるレトロでかわいらしい絵が加わって、素敵な恋の物語となりました。訳は、金原瑞人さんです。
相手のことを想い続けたけんかの時間を経て、縮まっていく距離とともに、関係が変化していくその物語を、素敵な絵と文でぜひ味わってみてくださいね。
にこっとポイント
- 大切な人へ愛を込めて、プレゼントをしたくなる絵本です。バレンタインのチョコレートの代わりに、なんてよいかもしれませんね。
- 手紙の終わり、「P.S.」でぶつけられる手厳しい口撃(?)に読者はくすりとしつつ、ことばとは裏腹にだんだんと距離が近づき、仲直りをしていく二人の様子に、きゅんきゅんしてしまうはずです。
(にこっと絵本 Haru)