メキシコでは、クリスマスまでの九日間に「ポサダ」という特別なお祝いが行われます。
『クリスマスまであと九日 セシとポサダの日』マリー・ホール・エッツ、アウロラ・ラバスティダ作、たなべいすず訳、冨山房、1974 amazon
初めてポサダをしてもらえることになった小さな女の子セシは、その日が待ち遠しくてしょうがありません。今まで眺めるばかりだった、色とりどりでさまざまな形のピニャタ(中にお菓子などを入れたくす玉のようなもの)に思いをはせ、心踊らせます。
メキシコの日常の情景を豊かに語りつつ、小さな少女が迎えたクリスマスを情感たっぷりに描いています。
愛おしい、少女の踏みだす一歩
クリスマスまで毎晩おこなわれるポサダ。もう幼稚園にも行っているし、「大きくなったから」ポサダのときに起きていてもいいよ、と初めてポサダをすることを許してもらい、セシは大喜びします。
幼稚園がお休みになってからは、ポサダの日までどれだけ待ったらいいのか、まわりの大人に聞いてまわるくらい。とっておきのピニャタを選び、くだものやお菓子をいっぱいに詰め込んだセシは、どんなポサダを過ごすのでしょうか?
この絵本では、セシの純粋な興味と、少しずつ関わる世界が広がっていくことへの期待とが、丁寧に描かれています。私も読んでいて、等身大の小さな女の子が一喜一憂する姿に、現在4歳になる娘の姿が重なるようでした。
人形のガビナを抱きしめ、セシが見つめる毎日は、どれもがキラキラ、そして生き生きとしています。
きっと、読後には成長への期待を胸に日々過ごす子どもたちが、さらに愛しくなるはずです。
あたたかな色で描く、にぎやかなメキシコのクリスマス
クリスマスといえば、赤と緑のイメージがありませんか? でも、この絵本のクリスマスは、赤や黄色、ピンクなどの暖色だけで色付けされています。
パッと見た感じでは、クリスマスの本らしくないかもしれません。けれど、読んでいると不思議に、少女のポサダを待ち望むうきうきした気持ちが、よりじんわりと心にしみるように伝わってくるのです。
表紙に描かれたろうそくの灯る夜の情景も、ずっと楽しみだったポサダの日を迎えたセシの気持ちを思うと、何にも代え難い幸せな一場面なのがよくわかります。ぜひ、あたたかで鮮やかなメキシコのクリスマスの様子を、存分に味わってみてください。
にこっとポイント
- 異国のクリスマスの文化や、日常の生活を知ることができます。少し文章は長いですが、情感たっぷりの語りと絵柄をぜひじっくりと読んでみてほしいです。
- この絵本のピニャタとは少し違いますが、風船や段ボールからでも簡単にピニャタを作ることができます。調べてみるとたくさんの作り方が出てくるので、このクリスマスはお子さんとピニャタを作るところから楽しんでみてはいかがでしょうか。
- 絵本雑誌『MOE』で連載していたものを書籍化した、『えほんとさんぽ』(杉浦さやか/作、白泉社、2018)でも、この絵本の楽しみ方が紹介されています。
(にこっと絵本 Haru)