保育士を目指す学生さんのリクエストから始まった、絵本専門士で保育者養成校の講師でもある、鴫原晶子さんの「しぎさんの絵本教室」。今回は、保育者の立場から「絵本ってなに?」について考えていきます。
絵本ってなに?
絵本については様々な立場の方々が、様々な定義を述べられています。
しかし、ここではあくまでも「乳幼児と関わる保育者」という立場から、何名かの専門の先生方のことばを、定義としてお伝えします(以下、敬称略)。
1. 松居直(児童文学者)
絵本はこどもが読むものではありません。大人が子どもに読んであげるものです。
絵本を子ども自身に読ませようとする大人は、結構いるようです。
しかし、大人が子どもに絵本を読んであげることで、子どもは想像力をふくらませ、ファンタジーの世界を素直に楽しめるようになります。
そして、大好きな大人に読んでもらうということの積み重ねによって、精神が安定し、豊かな感性が育ちます(同様の効果は、読んであげている大人にもあるようです)。
したがって、子ども自身に読ませることはもう少し先にして、特に就学前の小さな子どもたちには、大人が読んであげたいものです。
絵本はこどもが初めて出会う芸術です。初めての絵画・初めての文学です。
芸術は、人によってその解釈が違います。ですから、絶対ということはあり得ないかもしれません。
しかし、幼い子どもにとっては、見て心地いいもの、聞いて心地いいものから始めたいものです。
「ゴッホが好き!」「葛飾北斎が好き!」「ガウディが好き!」…… となるのはもっともっと大きくなってからのことです。少なくとも「興味なし!」とならないようにいい絵本を読んであげましょう。
2. 佐藤弥生(清水しらゆり認定こども園前教頭)
絵本は心の食事です。だから毎日いいものを与えます。
「いいもの」とは、どのようなものを言うのでしょうか?
少なくとも、目の前にいる子どもたちのことをよく知っていれば、おのずといい絵本を手に取れるはずです。
保育者が、つねに学びを続けなければならない理由の1つは、いろいろなことに対しての知識を積むことで、今を生きる幼い人たちに的確な保育ができるからではないでしょうか。
絵本についてもしかり、です。
「保育で読みたい絵本の選び方について」でも述べましたが、今のうちにたくさんのいい絵本に出会ってほしいです。
3. 柳田邦男(ノンフィクション作家)
絵本は人生に3度
幼い頃に読んでもらい、親になったときに我が子に読んであげて、人生の終盤は孫のため、そして自身のために読み直す。
幼いときに読んでもらっていなければ、人生に3度、にはなりません。
大事なことは、選んだ絵本が、見てくれている子どもたちの発達や興味関心に合っているかどうか、そして相手に対して感謝の気持ちを持つことです。
あなたの好きな絵本は何ですか?
好きな絵本を10冊、挙げられますか?
子どもたちの成長発達に関わるものとして、一度振り返ってみて下さい。
さいごに― 忙しい保護者に代わって
本来、絵本は大人と子どもが一対一で読むものです。
ですから、数年前まで私も親子講座などで「一冊の絵本を読むのにかかる時間は5~10分程度です(もちろん、読み切るまでに20分くらいかかる絵本もありますが)。どうかお子さんに、毎日絵本を読んであげて下さい。」とお伝えしていました。
しかし、コロナ禍以降、家庭の状況を考えると、忙しくて疲れている保護者の方にお願いするのは酷ではないか! と思うようになりました。
だからこそ、保育者が毎日子どもたちにいい絵本を読んであげて欲しいのです。そして、子どもたちとファンタジーの世界を共有したり、楽しさ・感動を味わったりしてください。
どうか絵本が大好きな保育者になってくださいますように!
(寄稿: 絵本専門士<東京都> 鴫原晶子 / 保育者養成校講師)