『賢者の贈り物』は、アメリカの作家オー・ヘンリーが、1905年に新聞で発表した短編小説。クリスマスの定番の物語として、世界中で読み継がれています。
主人公は、貧しい若夫婦。クリスマスに、それぞれ自身の大切なものを売り、サプライズでプレゼントを用意しました。
妻のデラは自慢の長い髪を売り、夫のジムの大切な金の懐中時計に合うプラチナの時計チェーンを購入します。
『賢者の贈り物』(P.J.リンチ)より
ところがジムは、その金時計を売り、デラの髪に飾る櫛を買っていました。つまり、どちらのプレゼントも無駄になってしまったのです。
それでも作者は言います。「彼らこそ、正真正銘の賢者なのだ」と。
さて、以上のストーリーをふまえて、3冊の絵本を読み比べてみましょう!
1. ツヴェルガー、矢川澄子
『賢者のおくりもの』オー・ヘンリー文、リスベート・ツヴェルガー画、矢川澄子訳、冨山房、1983 amazon
『賢者の贈り物』の絵本といえば、こちら!― とも言えるロングセラーです。
絵は、繊細で淡く上品な雰囲気で、文は、流れるようでとても美しい。静かなクリスマスにぴったりです。
二人の表情やちょっとした仕草からは、相手を思う気持ちや、葛藤も戸惑いも、みずみずしく伝わってきます。私が初めてこの絵本を読んだ子どものころ、その大人っぽさになんだかドキドキしたことを覚えています。
二人にとって、大切なものを手放しても、相手の欲しいものを贈ることは、喜びであったのかもしれません。今回の出来事は、歳を重ねても語り合うよい思い出となったのでは…… なんて想像も膨らみます。
2. いもとようこ
『賢者のおくりもの』オー・ヘンリー原作、いもとようこ文・絵、金の星社、2014 amazon
こちらは、オー・ヘンリーの文章を下敷きにし、いもとようこさんが文章と絵を手がけた作品です。細かな描写は削り、大筋だけを残しています。
絵にはあたたかみがあり、やわらかな雰囲気。特に、デラが髪を売るために帽子をとったとき、美しい髪が流れ落ちるシーンは圧巻です。表紙も、赤いリボンが印象的なので、クリスマスプレゼントとして選ばれることも多い絵本です。
大人には少し物足りないかもしれませんが、3冊の中で1番わかりやすく、小学生の読み聞かせにもおすすめです。
3. リンチ、齊藤昇
『賢者の贈り物』O・ヘンリー文、P.J.リンチ絵、齊藤昇訳、いそっぷ社、2024 amazon
3冊の中で1番小ぶりなのに、重厚感があるのがこちらの作品です。
暗い色彩の水彩画は、表情や室内の様子、風景まで細やかに描かれていて、とてもリアル。雪の降る街並みや店内の様子を見ていると、デラの寒そうで飾り気のない姿から、夫婦の貧しさが実感できます。
文章は硬めですが、整っていて読みやすいので、中高生や大人が読むにはちょうどよいと思います。また、端然としたことば遣いが、絵の重みと合っているように感じられます。
まるで長編映画のような趣のある絵本です。
にこっとポイント
ぜひ3冊を読み比べていただきたいのですが、まず1冊読んでみたいという方のために、ポイントをまとめます。
- ツヴェルガー→ 絵本は、訳文が難しいという声もあるので、ある程度本を読み慣れている方におすすめです。静かに、じんわりと、幸せや喜びを感じていただけると思います(ちなみに、わが家の中学1年生は「絵と文の雰囲気がすごく良い」という理由で、3冊の中ではこちらを好んでいます)。
- いもとようこ→ 小学校高学年以上のお子さんの読み聞かせにもおすすめの、わかりやすい絵本です。細かいエピソードが削られていますが、『賢者の贈り物』に触れてほしいというときの第一歩に適しています。
- P.J.リンチ→ 中高生から大人まで、幅広い世代におすすめです。「短編集を読んで今一つピンとこなかったけれど、この絵本を読んでグッと理解が深まり、感動した」という声もありました。大人の方へのクリスマスプレゼントにも。
(にこっと絵本 高橋真生)