『急行「北極号」』C・W・オールズバーグ、絵と文、村上春樹訳、あすなろ書房、2003 amazon
ずいぶん昔、まだ子どものころ、クリスマス・イブの夜中に、ぼくは静かにベッドに横になっていた。シーツのすれるこそりという音さえさせなかった。
そんなふうにして、「ぼく」が待っていたのは、サンタのそりの鈴の音でした。
でも、夜が更けた頃、聞こえてきたのは、鈴の音ではなく、蒸気の音と金属がきいいっときしむ音。ぼくの家の前に、白い蒸気につつまれた謎めいた汽車・急行「北極号」が停まったのです。
ぼくは汽車に乗り込み、大勢の子どもたちと共に、サンタの街・北極点へと向かいます。
映画化された絵本『ジュマンジ』などで知られる、オールズバーグのパステル画は、迫力満点。見開きで1枚の絵になるように作られているので、絵がとても大きく、映画館のスクリーンを見ているかのようです。
全体的に暗い色調の絵本ですが、重くなく、すっきりと読み進められます。村上春樹の訳した、ぼくの淡々とした語り口によるもので、これには、子どもだけでなく、大人も魅了されます。
サンタと絵本を、卒業しようとしている人、卒業してしまった人に―
『急行「北極号」』は、小学生から大人まで幅広い世代に愛されている絵本ですが、私は、特に、絵本をそろそろ卒業しようとしている子や、絵本は子どものものだと思っている人におすすめしたいと思っています。
絵本には、まだまだおもしろいものがたくさんあるということを知ってもらいたい、と考えているからです。
絵本も、そしてサンタも、卒業しなくてもよいのではないでしょうか?
ぼくのともだちのひとりは、「サンタなんて、どこにもいないんだよ」と言いました。
でも、ぼくは、北極点で、サンタに選ばれて、クリスマスプレゼント第1号をもらいます。
サンタにもらったトナカイにつける鈴は、とてもきれいな音でしたが、それは両親には聞こえず、やがてともだちや妹にも鳴り響くことはなくなりました。
でも、ぼくの耳には、大人になった今でも、まだ届きます。
心から信じていれば、その音はちゃんと聞こえるんだよ。
クリスマスのお子様への読み聞かせにも、大人になった方が自分で楽しむのにも、どちらにもぴったりの絵本です。
私は、この絵本を、保育士さんたちに読んだことがあります。園の子どもたちへの読み聞かせではなく、子どものいないところでです。保育士さんたちが、仕事でしか絵本を読むことがないとおっしゃったので、時々このような、自分が楽しめる絵本を読みます。
みなさんも、鈴の音が聞こえていた子どものころを懐かしみながら、読んでみてはいかがでしょうか。
にこっとポイント
- いつまでも子どもの心を持っていたいと思わせてくれます。子どもにも、昔子どもだった人にもおすすめのクリスマス絵本です。
- 北極号の明るい車内で、パジャマ姿の子どもたちが楽しそうにしているシーンがとても好きです。ココアを飲んだりお菓子を食べたり、クリスマスキャロルを歌ったりの楽しい旅です。ワクワクしますよ。
- オールズバーグのパステル画は迫力満点。大き目の見開きの絵は、まるで映画館のスクリーンを見ているかのようです。
(寄稿:絵本専門士<北九州市> Mako)