しろいうさぎとくろいうさぎ、二ひきの小さなうさぎが、広い森の中に住んでいました。
『しろいうさぎとくろいうさぎ』ガース・ウィリアムズ文・絵、まつおかきょうこ訳、福音館書店、1965 amazon
毎朝はね起きて、光の中に飛び出していく二ひき。一日中、かくれんぼをしたり、ひなぎくとびをしたり、クロ―バーくぐりをしたりして過ごしていました。
でも、くろいうさぎは時折悲しそうな顔で座りこむのです。しろいうさぎが問いかけるたびに、「うん、ぼく、ちょっとかんがえてたんだ」と答えるくろいうさぎ。
そして、とうとう「あるねがいごと」を口にするのでした。
シンプルなようでいて、心の機微を繊細に読み解ける絵本
「いつも いつも、いつまでも、きみといっしょに いられますようにってさ」
くろいうさぎの願い事を聞いたとき、しろいうさぎはどんな気持ちだったのでしょう。一緒に過ごすのが当たり前だったくろいうさぎが、自分との未来を切に望み、もしその未来を失う不安を抱いていたと知ったのです。
じっと考え込みながらも、しろいうさぎの心のうちには驚きや喜びといったたくさんの思いが駆けめぐっていたのかもしれません。
目をまるくし、はっと息を止めたかのように、口に手をあてたしろいうさぎの表情。それは、今まで見ていた世界が一瞬で塗りかわってしまったようでもあります。
おだやかで美しい、二ひきの結婚式
思いの通じ合った二ひきは、たんぽぽの花を摘んで耳にさします。そして、月明かりの下、お祝いに駆けつけた動物たちに祝福されながら、結婚式をあげるのでした。
なんて静謐で、穏やかな幸せに満ちているんだろう、とじっと眺めていたくなる、私の大好きな場面です。大人になったからこそさらに深く感じられるこの神聖さを、白く明るい月と鮮やかな黄色いたんぽぽが演出しています。
「いつも いつも、いつまでも」ってとても素敵なことばですよね。
この絵本を読んでいると、当たり前のように過ごしている日常が、幸せに溢れていることに気づかされます。
一緒にいたいと思う人に出会える幸せ。想いが通じ合い、人生を一緒に過ごすことができる幸せ。子どもたちの成長を見守ることができる幸せ。ひとつでも欠けていたら、「今」とは違っていたかもしれません。
原題は『THE RABBIT’S WEDDING』、世界中で長く愛される理由を、大人になった今だからこそ実感できる絵本です。
にこっとポイント
- 大人にこそ改めて触れてほしい、静かな愛に溢れた素敵な絵本です。大切な人への人生の節目の贈り物としても、おすすめです。
- シックな色調の中に、たんぽぽやひなぎく、きんぽうげなどの花々が鮮やかに感じられます。うさぎたちの毛の先、草木のそよぎ、目線の運びや微かな表情の違いまで繊細に描かれていているため、生き生きと二ひきの様子が読みとれます。
(にこっと絵本 Haru)