「お兄ちゃんが妹をおんぶしている表紙で、そりに乗ったり踊ったりする、あったかいチョコレートの出てくる雪のクリスマスの絵本、知ってる?」
小学校1年生の女の子にこう聞かれたことがあります。
幼稚園で時々読んでいた絵本で、卒園して読めなくなったから買うことにした。でも、本屋さんにはそういう絵本はありません、クリスマスのころまた見にきてくださいと言われた…… のだそう。
きっとこれだろうと思いつつ、一抹の不安を抱えながらその子に渡したのが、この絵本『大雪』です。
『大雪』ゼリーナ・ヘンツ文、アロイス・カリジェ絵、生野幸吉訳、岩波書店、2018(1965年版の新版) amazon
そり大会に向けて、準備をするウルスリとフルリーナ。ウルスリは妹に、山のふもとの村の糸屋に、そりの飾りに使う毛糸のふさを買いにいくように言います。
道は遠く、雪も降っています。フルリーナは断りますが、そりで頭がいっぱいのウルスリは聞いてくれません。フルリーナはしかたなく、泣きながら出かけていきます。
なんとか毛糸のふさを手に入れたフルリーナですが、帰り道、なだれが起きてしまいました。フルリーナは、動物たちが大雪などを避けて逃げ込む「あらしの木」であるモミの木のおうちへ素早く入ります……。
厳しいけれど、楽しい山の暮らし。やわらかく連なる文章は穏やかで清らか、そして、繊細な線に明るい色彩の絵はとてもあたたかです。ドキッとしたりハラハラしたりする場面もありますが、澄んだ美しさが強く印象に残ります。
「あったー!」と、小さな探し主が絵本との再会に大はしゃぎする姿に、私もすっかりうれしくなったのですが、この絵本、実はクリスマスのお話ではないのでした。
いっしょに『大雪』を読み、その子も「あれ?」と思ったようでしたが、でもにっこり笑ってこう言ったのです。
これ、わたしの夢のクリスマス!
記憶違いと言えばそうなのですが、私は、こんな読み方もとても好きです。絵本の中に吸い込まれたかのように、喜びや悲しみのみならず、寒さもあたたかさも、チョコレートのあまいにおいまでリアルに味わって、「ああ、だいすき」とうっとりする…… なんたる幸せ!
このことがあってから、『大雪』は、私にとってもクリスマスの絵本となりました。そしてページをめくるたびに思うのです。
確かに「クリスマス」ということばは使われていないけれど、この透明感と美しさ、そしてみんなを守ってくれるモミの木の強さや、やさしくもどこか厳かな雰囲気は、クリスマスにも通じるものがあるのではないか、と。
とてもとても美しい絵本です。子どもから大人まで、冬の贈りものにもおすすめの1冊です。
にこっとポイント
- スイスを舞台にした、山の暮らしを美しく描いたロングセラー絵本です。
- 見開きの左のページに文、右に絵が描かれています。山の生きものや部屋の中の様子からは、子どもならずとも目が離せません。文章のページに描かれたモノクロの絵も、楽しいです。
- 『ウルスリのすず』『フルリーナの山の鳥』などもあります。
(にこっと絵本 高橋真生)