よき「先生」との出会いは、多くの人にとって、その後の人生を左右する貴重な出来事でもあります。
この絵本の主人公・トリシャにとって、フォルカー先生との出会いは、まさに、その後の人生を大きく変えた出来事でした。
『ありがとう、フォルカーせんせい』パトリシア・ポラッコ作、香咲弥須子訳、岩崎書店、2001 amazon
トリシャは、字を読むことができません。
これは、現在では「LD」と言われる症状です。
LD(学習障害)とは、全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど、特定の学習のみに困難が認められる状態のことです。
字が、くねくねした かたちにしか みえないんだもの
トリシャは、自分の頭が悪いせいだと思うのでした。
引っ越しをして新しい学校で、5年生の時に赴任してきたのがフォルカー先生でした。先生は平等で、見かけにとらわれずきちんとした評価をする人でした。
トリシャの絵を褒めてくれるし、できたことを評価してくれます。
そして、「トリシャは字が読めないんじゃないか?」と気づいたのも彼でした。
放課後の特訓で、トリシャは字が読めるようになったのでした。
実は、この作品は作者であるパトリシア・ポラッコ自身のことを描いたものです。
30年経って二人は、ある結婚式で出会います。
フォルカー先生に、「今、子どもの本を書いている」と報告したトリシャの気持ち。それを聞いたフォルカー先生の気持ち。
最後のページからは、感謝や喜びがあふれてくるのを感じます。
あなたのこれまでを振り返ってみてください。ここまでの歩みの中に、影響を受けた「先生」がいるのではないでしょうか?
にこっとポイント
- その後の人生を左右するような、よき「先生」との出会いを描いた絵本です。
- LD(学習障害)について知ることができます。
知ってほしい!学習障害
学習障害(Learning Disability:LD)は、全般的な知的発達に遅れはなく「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力に困難が生じる発達障害のことです。気づかれにくいことも、診断が遅れたりすることも多い、難しい障害でもあります。特定の分野のできないことを除けば、その他に発達の遅れはありません。
そのため「がんばればできる」とか「努力が足りない」などの不当な評価を受けることがあり、子どもが自信をなくしてしまうことも少なくありません。読み書きに困難さを感じたときは、一人一人にあった学び方を見つけるためにも、まずは専門家に相談をしてみましょう。
(にこっと絵本 森實摩利子)