毎日を楽しくする術を教えてくれるファンタジー。
『ピアノはっぴょうかい』みやこしあきこ、ブロンズ新社、2012 amazon
今日は、はじめてのピアノの発表会。不安と緊張でいっぱいのももちゃんは、眉間にキュッとしわを寄せ、下を向いています。
ところが、ふいに「だいじょうぶ だいじょうぶ!」と声がしました。
足元を見ると、そこにいたのはこねずみでした。こねずみは、ねずみの発表会を見においで、と誘います。
こねずみと一緒にどんどん奥へと進み、身体を丸めてドアをくぐると、そこは、ねずみの発表会場でした。
ねずみたちの発表会は、サーカスあり、手品あり、バレエあり、と本当に「何でもあり」ですが、歌も踊りも全然揃ってなくたって、すごく楽しそう! 客席や舞台のねずみたちは1匹1匹とてもいきいきとしています。そう、みんなそれぞれ、今日の主役ですもんね。
緊張したり大笑いしたり、時が止まったかと思うような瞬間があればフルスピードで過ぎていくときもあり、視点はいつだって、上から下から横からとくるくると移り変わって― その勢いはページをめくる手を止めさせません。ああ、楽しいなあ!
ふと入り込んだ世界で、力が抜けて笑顔になったももちゃん。ふと気づくと、自分の世界に戻ってきていました。
またたく間の、異世界への旅。けれどなんだか妙に現実味があるのは、みやこしあきこさん独特の絵のせいかもしれません。ふんわり揺れるももちゃんの髪や、こねずみの引っ張るタイツの厚み、Tストラップの靴の質感に、ねずみたちの毛並みまで、実にリアルなのです。
また、「白黒」というよりは「明暗」と言いたくなるような木炭の色、そこに施された赤や黄色も、見る人を別の世界へと吸い込むような力があります。
ひょっとしたら、今私のいる「ここ」にファンタジーの世界への入り口があるかもしれない。読み終えた後、目の前の景色が少し変わって見える絵本です。
にこっとポイント
- リアリティのある絵と物語の楽しさが、読み終えた後の時間も幸せにしてくれます。
- 見返しの音符もかわいらしく、音楽が好きな大人の方へのプレゼントにもおすすめです。
(にこっと絵本 高橋真生)