欲のツケは巡り巡って……『しにがみさん』は、怖くて粋な落語絵本です。
『らくごえほん 柳家小三治・落語「死神」より しにがみさん』野村たかあき作・絵、教育画劇、2004 amazon
江戸の若い夫婦が、赤ちゃんを授かりました。しかし、食べ物を買うお金にも困ってしまいます。気を落とす男に話しかけたのは、なんと死神。死神は、「医者をやれ」と男にすすめます。男は、教えてもらった呪文を使って大儲けするものの、欲を出して……。
版画が引き立てる、余韻の残る怖さ
お金に目がくらんで死神の教えを破ってしまった男は、なんと寿命を売り渡してしまっていたのです。でも、そこにも死神は助け舟を出します。今か今か、早く早く、そして助かったと思った瞬間……!
緊迫の展開を、明暗をうまく生かした版画の絵柄がさらに引き立てていて、その怖さには余韻が感じられます。ふっとろうそくの煙の匂いが実際に立ち上ってくるようなラストに、きっとあなたも背筋がひんやりとするはず。百物語を聞くような趣を、ぜひ楽しんでください。
思わず口に出して読んでみたくなる! 江戸っ子になりきってみて
この絵本は、柳家小三治の落語「死神」を子どもにもわかりやすくアレンジしたもの。落語ならではの江戸っ子らしい言い回しや、テンポのよいかけあいが耳に心地よく響きます。「豆腐の角に頭ぶつけて死んじまいな」なんて言い回し、現代ではなかなか聞けませんよね。
それに、男が死神に教えてもらう呪文も、とても魅力的。
アジャラカ・モクレン・キュウライス・テケレッツのパア
と、思わず何度も口に出して言ってみたくなります。
絵本は、普段はお母さんと読むことが多いかもしれませんが、たくさんの人と過ごす機会の多い夏休みはチャンス。男の人や年配の人の声で読んでもらうと、また一味違った「しにがみさん」の楽しさを味わうことができるかもしれませんよ。
にこっとポイント
- 暑い夏を乗りきる、怖い話として一冊いかがでしょう。
- 落語のテンポと言い回しを、いろいろな人の声で楽しんでみるのもおすすめです。
(にこっと絵本 Haru)