子どもがトイレで排泄できるようにするための「トイレトレーニング(トイトレ)」。
子どもになじみのないトイレのことを教え、排泄はトイレでするという意識づけをするのに、絵本はちょうどよいですね。
ただ個人的には、やり方を教えるとき以外は、「トイレに行こうよ!」という強い働きかけがないものが好みです。
その点、こちらの『トイレ トイレ』は、なんともちょうどよいものでした。
『トイレ トイレ』西村敏雄、小学館、2022 amazon
ここは、森の中。
大きな木の下にトイレがあって、さるやくま、ぞうといった動物たちが次から次へとやってくるのです。
トイレ トイレ!
そして、うんちやおしっこを
ぷりぷり ぽっとん じゃー じゃー じゃー
優しくて穏やかなことばと絵。シンプルでわかりやすい内容。チャーミングな、トイレの後の動物たちの笑顔。
しかも、「終わったら流すんだよ」なんて言わなくても、「すっきりしたら、どうするの?」と声をかければ「水を流してじゃー!」というやりとりができるようになってしまいます。
トイトレがうまくいかなかった理由が、『トイレ トイレ』で判明!
というわけで、トイトレを始めようとしていた方にこの絵本を紹介したところ、後日、こんなお話を聞かせてくれました。
そのお子さんは、園のお兄さん・お姉さんたちにあこがれて、自らトイトレ開始を宣言したそう。
季節は夏、身のまわりのことができるようになってきているし、おしっこの間隔もあいている。大人に自分の意思を伝えることもできる。
お母さん自身も「そろそろかな」と思っていたため、希望通り、すぐにスタートしました。
ところが、「おしっこしたい」と教えてくれるのに、肝心のトイレの前で「行きたくない」とまさかの拒否。
園では順調にできているのに、なぜ……?
補助便座は大好きなキャラクター付き、ぐらぐら揺れないように足のせも完備、もちろん清潔も保たれていて…… 聞いてみてもはっきりした理由がわかることなく、思いつく限りの工夫をしても変化が見られない。
悶々とした中、『トイレ トイレ』を読んでみることにしました。
すると、お子さんはうっとりしてこう言ったそうです。
「お外のおトイレいいなあ。明るくっていい気持ちだね」
よくよく聞くと、だれかが一緒にいてくれても、おうちのトイレが暗くてこわかったのだそうです。しかも電気はついているから、それ以上明るくするのは無理なのだろうと、がまんしていたのだとか。
「実は私、掃除が嫌いで、トイレに物を置かなかったんです。だから、カラフルな補助便座を見て、トイレが明るくなったなーなんて思ってたんですけど。それでも子どもには、暗くてこわかったんですね」
それからは、動物模様の壁紙を貼ったり、ふかふかのマットを置いたりして、雰囲気を一変、すると、あっという間にトイトレは完了!
みずを ながして じゃー
まで、完璧にできるようになったそうです。もちろん、「みずを ながして じゃー」のかけ声つきですよ。
ところで、このお母さんは、「無理にトイレを勧めるようで、子どもにプレッシャーを与えるのが心配」と始めは『トイレ トイレ』を読まないつもりだったそうです。
確かに絵本は、何かをできるようにするために読むものではありませんし、大人の思惑は子どもにすぐに伝わってしまうように思います。
けれども、子どもたちにとって、このような生活絵本は、成功や失敗に共感できるもの、やる気を引き出してしてくれるものです。
絵本を選ぶとき、子どものためとついつい肩に力が入ってしまうという方もいらっしゃいますが、自分でやりたい、できるようになりたいという気持ちを応援すると思うとよいのかもしれませんね。
にこっとポイント
- 森のトイレを使う、動物たちのお話です。優しく穏やかで、トイレトレーニング中のお子さんにぴったりです。
- 子どもの「自分でできるようになりたい」という気持ちを応援してくれます。
(にこっと絵本 高橋真生)