北極のかまくら「イグルー」。『「イグルー」をつくる』は、イヌイットの猟師親子のイグルー作りを追った、ノンフィクションです。
『「イグルー」をつくる』ウーリ・ステルツァー著、千葉茂樹訳、あすなろ書房、1999 amazon
イグルー作りは、やわらかすぎず、かたすぎもしない「いい雪」を見つけることから始まります。
それから、ノコギリで雪のブロックを切り出し、組み立てる。息子のジョピーがブロックを運び、父親のトゥーキルキーがナイフでならしながらうずまき状にきれいに積んでいきます。
美しいモノクロームの写真からは、雪を切る音と足音、それから風の音が聞こえてくるよう。淡々として落ち着いた文章も、飄々(ひょうひょう)としたトゥーキルキーの姿や、イグルーが着々とできあがっていく様子と合っていて、心地よく感じられます。
イグルーのてっぺんに最後のブロックをはめ込むと、まあるい建物のできあがりです。
ところで、ブロックを積むときはイグルーの内側に立つので、完成時にはトゥーキルキーは中に閉じ込められてしまうことになります。どうやって外へ出てくるのでしょうか?
無事トゥーキルキーの顔が見えたときの、子どもたちの安堵のため息と笑顔は、とてもいいものですよ。
ともに生きることで、受け継がれるもの
雪を使ったイグルーは、家の材料になる木が育たない地方ならではの知恵とも言えるでしょう。
大きさは自由自在。えんとつも、窓(ガラスではなく海の氷をはめ込みます)もあって快適。必要な道具は、動物の骨やシカのツノ、セイウチの牙などで作ったナイフ、もしくはノコギリが一本。狩りのえものを求めて移動するけれど、夏には溶けて消えてしまうから、気にしなくていい。
イグルーは、身のまわりのものと人の力だけでできています。
絵本によると、今は、イグルーで暮らすイヌイットはおらず、トゥーキルキーがイグルーをつくるのも、狩りで遠出ときなどに限られるそうです。けれど、ジョピーは、トゥーキルキーの作業から目を離しません。
「いつかジョピーもイグルーを作れるようになるよね」とうれしそうに言った子がいますが、『「イグルー」をつくる』は、イグルーの作り方だけではなく、イヌイットの軽やかな生き方や、大切にしていることが、ともに生きるうちに、受け継がれていく様をも見せてくれる絵本です。
ごく小さなお子さんから、中高生や大人の心までも動かす名作なのですが、残念ながら、現在手に入りにくい状態です。ぜひ図書館もご利用くださいね。
にこっとポイント
- イヌイットのイグルー作りを追った、モノクロの美しい写真絵本です。
- イグルー作りだけでなく、イヌイットの生き方や親と子のつながりなども描かれていて、幼児から大人まで、幅広い年代の方に喜ばれます。
- 小さいお子さんなら、読んだ後、おふとんのイグルーごっこなど冬ならではの遊びも盛り上がります。
(にこっと絵本 高橋真生)