ある朝、男が起きたら、頭がなかった。部屋中探して、生ごみバケツまで開けてみたけれど、頭はどこにもなかった。
『あたまをなくしたおとこ』C・H・ビショップ文、ロバート・マックロスキー絵、もりうちすみこ訳、瑞雲社、2011(初版) amazon
男が思い出したのは、「ブタ」、そして「まつり」ということばでした。
ブタを連れて祭りに行ったことを思い出した男は、もう一度祭りに行ってみることにしました。でも、頭がなくては困るので、カボチャを頭にのせて行くことに― そんなふうに、次々にニンジン、丸太を頭に仕立ててみるけれど、どれもしっくりきません。
頭なし、考えなしだからトラブルにも巻き込まれてしまい…… 男はどうなってしまうのか?
『シナの五にんきょうだい』の作者が仕掛ける奇想天外なストーリーに、きっと誰もが引き込まれてしまうはず。
あなたの頭はどんな頭? 頭がなくなってしまったらどうしよう!?
「朝起きたら頭がなくなっていた」なんて、カフカの『変身』を思わせる物語のスタートですよね。
この奇想天外な導入から、私たちはこのお話に引きつけられ、なんだか魔法で惑わされるように、不思議な世界に足を踏み入れることになります。
頭がなくなった男は、さまざまな頭を試してみます。
カボチャ頭では目立ち過ぎ、ニンジン頭ではやつれていると注目されてしまう。丸太を削って作った頭はなんだかしっくりきたようだったけれど、本物の頭じゃないから考えなしの行動をとってしまう。
途方に暮れた男に、ある男の子が尋ねるのです。
おじさんの頭はどんな頭?
私たちだったらどう答えるでしょうか。肌の色、鼻の形、目の色、目つきの印象。眉毛に髪の毛の感じ……。自分のことをどのように説明しますか?
頭は周囲からの印象を決め、物事をよく考えて危険を回避してくれる、やっぱりないと困るもの。でも、なくなってみないと、よくよく自分の頭のことを考えてみたことなんてない―。
頭がなくなってしまったらどうしたらいいのだろう、と考えたこともないようなストーリーの、不思議なマジックのような魅力に、皆さんも惑わされてみませんか。
にこっとポイント
- 奇想天外なストーリーで、その展開に思わず夢中になってしまうようなお話です。
- 「あたまをいためる」「あたまにない」など、頭にまつわる言い回しが多く出てくるので、ことば遊びのような感覚でも楽しむことができます。
(にこっと絵本 Haru)