大人の方も、子どもの頃、こんな経験をしたことがありませんか?
『めっきらもっきら どおんどん』長谷川摂子作、ふりやなな画、福音館書店、1985 amazon
今年はどんな夏休みになるのだろう― 小学生の頃は特にわくわくして、その始まりの日がくるのを待っていたものでした。夏休みを設ける理由には様々な説がありますが、日本では、明治時代にアメリカの教育制度をまねて導入されたのだそうです。思い返せば、宿題がたくさんあっても楽しみな期間でした!
さて、そんな夏休みのある日、思いがけない体験をした男の子がいます。名前はかんた。夏の日盛り、かんたは、遊ぶ友だちが見つからず、そこへ行けば誰かに会えるだろうと、期待して神社に行ってみました。しかし、そこにも友だちはいません。
そこで、かんたがしたのは、めちゃくちゃな歌を大きな声で歌うこと。「ちんぷくまんぷく あっぺらこのきんぴらこ じょんがらぴこ たこ めっきらもっきらどおんどん」。
歌ったとたんに、かんたは日常の世界から、おかしな3人のばけものがいる非日常の世界― つまりファンタジーの世界に入っていったのです!
子どもたちは、絵本を真剣に見てくれます。ゆかいでへんちくりんなばけものたちと遊ぶかんたの姿に、自分自身を投影して一緒に遊んでいるのかもしれません。
登場する3人のばけたものたちの名前、「もんもんびゃっこ」「しっかかもっかか」「おたからまんちん」もどこかで聞いたことがあるような、その姿もどこかで見たことがあるような……という顔つきになってきます。
だから、かんたがあることばを叫んで日常の世界に戻ったときに、最初に聞こえたお母さんの声、「かんちゃーん ごはんよ~」には、とても安心するのだと思います。
児童文学者の瀬田貞二先生は、『めっきらもっきら どおんどん』のようなおはなしを「行きて帰りし物語」といわれました。子どもの本の世界にはこのようなおはなしがたくさんあります。子どもはその行き来が簡単にできるようです。
日常に戻ってきたかんたがどうしても思い出せない「ちんぷくまんぷく……」の歌も、「きみならおもいだせるかな」のことばの後に、見事に一緒に歌ってくれますよ。
にこっとポイント
- 大人も子どもも夏ならではのファンタジーの世界を楽しめます。
- 歌う場面が何ヶ所かありますが、思いっきりメチャクチャに歌ってみてください。
- 『めっきらもっきら どおんどん』のようなおはなしを「行きて帰りし物語」と言います。子どもたちは「こちら」と「あちら」の行き来が簡単にできるようです。
(寄稿:絵本専門士<東京都> 鴫原晶子)